また、子どもがひきこもる家庭の特徴として、父親は仕事熱心で家庭での存在感が薄く、子どもとのコミュニケーションが少なく、母親は過干渉・過保護、という話を複数のサポート団体から聞いたことがある。大和さんの家庭は、まさにこのタイプにあてはまるように思える。

◆制止を振り切って「殺すしかない」

 休学しながらも、なんとか通信制の高校を卒業し、短大に進学した大和さんだったが、やはり人間関係はうまくいかず、入学して間もなく不登校になり、何カ月もひきこもった。

 小中学校時代のサッカー部の仲間たちが、大学に入ったり、サッカーを楽しんだりする様子をフェイスブックで見るたびに、劣等感にさいなまれる。「現実を見たくない」と思い、ゲームにのめりこんだ。

「おかしいな、俺はこんなに頑張ってるのに、なぜこうなるんだろう」

「もう死にたい」

「居場所がない」

 そんな気持ちを、誰に伝えればいいのかもわからなかった。そして、いつのまにか父親への憎悪をつのらせていった。

「なぜ、俺がこんなに苦しんでるのに本気で向き合ってくれないんだ?」

 ある夜、こう思った。

「父を殺すしかない」

 夕食を終えてくつろいでいる父親に、突然殴りかかった。母親や祖父が制止しようとするのを突き飛ばし、父親に向かっていった。

 父親はというと、緊迫した事態にも無反応で、大和さんに殴られるままにされていた。

「これでもまだ俺を無視するのか。この人はずっと変わらない。父親として、何もしてくれない」

 大和さんは悲痛な思いを抱えながら「殺す!」「死ね!」と叫び、無抵抗の父に拳を振り下ろし続けた。止めようとする家族にも手を挙げた。まだ小学生だった弟が部屋で泣き叫んでいた。

 ついに母親が警察に通報。「このままだと夫は殺される」と思ったのだろう。電話口で「家の中で息子が暴れています」と母親は必死に助けを求めていた。

 駆け付けた警官は大和さんをパトカーに乗せ、精神病院に連れて行った。気がつけば、自分の意志に反して入院手続きが進められていた。そこで我に返った大和さんは、「もう大丈夫です、二度としませんから」と警察官に訴え、なんとか入院を免れた。

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この時、見えた人生の「底」