写真はイメージです(Getty Images)
写真はイメージです(Getty Images)

 昼夜逆転の生活になり、起きているときは布団の中でゲームをし続けた。食事は、母親が部屋まで運んでくれた。たくさんの友達が心配してメールをくれたが、返すことはなかった。

 1カ月後には精神科に通うようになり、さまざまな薬を処方された。副作用で気力がなくなり、頭が回らなくなった。

 結局、高校を休学して一年4カ月間自宅に引きこもったのち、通信制の学校に編入。しかしそこでも、しばらく通っては数カ月休学する、ということをくり返した。そのころは、他人に対して心を閉ざし、常に不安を抱えていた。

 大和さんの変貌ぶりに、母親は「どうして」と泣いた。宗教に傾倒し、大和さんにも「お祈り」や「瞑想」を強要するようになったという。一方、父親はただ、不思議そうに大和さんを見ていただけだった。

◆父は何を考えているかわからない

 父親は、大和さんが小さいころから、忙しすぎてほとんど家にいなかったという。あまり顔を合わせることもなく、大和さんにとっては何を考えているかわからない「怖い」存在だった。そんな父に従う専業主婦の母。大和さんには夫婦で意思疎通ができているようには見えなかった。

 ただ、2人は教育熱心という点では一致していて、大和さんは小さいころからたくさんの習い事をさせられた。サッカー、水泳、武道、英語……。毎日何かの予定が入っていて、多い日は一日に3つの教室をはしごするという詰め込みスケジュールだった。

 日ごろ無口な父が、大和さんの受験については口を出した。地元でいちばんの進学校に進み、国立大を目指すこと。大和さんは、本当はサッカーが強い高校に進みたかったが、父の言いつけに従ったのだった。

 不登校やひきこもりの原因やきっかけは、ひとつではない。しかし、「家族との関係」が一因になっている人が多いことは間違いない。一般社団法人「ひきこもりUX会議」の調査によると、「あなたのひきこもりの原因やきっかけはなんですか」という設問に対して「家族との関係」と答えた人が42.2%。さらに、「生きづらさの理由」として親を挙げる人も半数近くにのぼっている(『ひきこもり白書2021』より)。

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母親は過干渉、父親は仕事熱心だが家庭での存在感が薄い