大和さんは、この時、人生の「底」が見えたと振り返る。

「父に暴力をふるったときが“どん底″でした。誰を信じていいかわからず、言葉で気持ちを伝えることもできなかった。あのとき父を殴らなければ、どこかで別の形で爆発していたと思います。暴力が、家族以外の他人に向かわなくてよかった。家族には申し訳なかったけれど、変わるきっかけになったのは確かです」

◆悩まされていた「多動症」への対策

 じつはその事件の少し前から、大和さんは、あるサポート団体に支援を求めていた。「福岡わかもの就業支援プロジェクト」という団体だ。父親が新聞で見つけて、「こんなところがあるから、行ってみないか」と勧めてくれたのだ。

 団体の代表である鳥巣正治さんは、大和さんの話をじっくりと聞いてくれた。そして、自身の息子がひきこもりだったという経験や、苦しかった時期をどう乗り越えたのかを、大和さんに話してくれた。

 精神科でも心療内科でも「上から目線で診断するだけ」だけのように思えたが、「この人は横に立って自分の話をきいてくれる」、そう感じた。

 鳥巣さんは言った。

「これからは、薬に頼るのはやめなさい。大和は病気じゃない」

 そう言われても、5年以上飲み続けていた薬をやめるのは不安だった。しかしやめてみてしばらくたつと、だんだん元の自分の活力が戻ってくるのを感じた。

 実は大和さんは、高校に入学したころから「多動症」に悩んでいた。じっと座っていられない、集中力が続かない。何も頭に入ってこない。

 そのひとつの原因は、メールが気になってしまうことだ。当時、セールス系を含めて1日に1000通近くのメールやLINEが来ていて、その通知がくるたびに開いてしまっていた。

 鳥巣さんのアドバイスに従って、メールアドレスを5つから2つに減らし、LINEのグループも7つから3つに減らし、フェイスブックもやめた。通知を切る方法、不要なメールを拒否する方法など、情報を整理する方法も教わった。

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ある日、父親が訪ねてきて