コロナ禍が続くなか、潔癖症の症状が悪化している人がいる。生活様式の変化、恐怖や不安が私たちの心もむしばんでいる。AERA 2022年1月17日号から。
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「初詣の人混みが怖い」
コロナ禍の元日、都内の会社員男性(29)は寺から足早に帰ってきた。久しぶりの人混み。参拝者と肩がぶつかりそうなときは、心の中で「うわ」と小さな声が出ていた。マスクなしなのに大声で会話する人がいて、急いで参道から離れた。
「人混みのなかにウイルスが飛んでいるのでは、感染したら怖いと思うと、感染対策ができていない人にキレそうになった」
心がどうも落ち着かない。コロナ禍になって、電車のつり革はますます触りたくないし、外出先でのトイレ選びも慎重になった。これで自分は大丈夫だろうかと戸惑っている。
精神科医の井上智介さんは、コロナ禍をきっかけに社会の常識が変わったことが潔癖症や恐怖症の発症や悪化のリスクとなっていると話す。
「世の中で清潔がより意識されるようになり、自粛が求められ、生活様式が変わりました。心身のストレスからくるこころの病気の発症や、何らかの影響を受けやすい条件が整っています。なかでも、いわゆる潔癖症の患者さんが大きく増えています」
レジの人のゴム手袋
潔癖症とは、過度に清潔にこだわること。不安や恐怖を払拭しようと何度も手洗いするなど、過剰に行動をする強迫性障害の一種とされている。
「例えば、コロナ禍に外出することがトリガー(引き金)になって、『ばい菌が付いたんじゃないか』と強迫観念にかられます。強い不安が払拭できず、きれいにしないとだめだと思って、手を洗って、消毒するのが強迫行為です」(井上さん)
一般的には一度洗えば安心する。だが、強迫性障害は、洗ったのに同じ不安がわき上がってくる。きれいにしないと気が済まないという考えに支配され、しっくりくるまで手洗いするのが習慣になり、自分でコントロールできなくなる。儀式化してしまうのだという。
「きれい好き、心配性とはわけが違います」(同)
都内に住む30代の会社員女性は、「コロナ禍前から潔癖症ですが、以前より気になることが増えました」と話す。
もともときれい好きで、電車の床にかばんを置く人を見ると、トイレに行った足で踏んだ床によく置けるなと自分の安全が脅かされるような激しい感情がわいたという。帰宅後は手洗いはもちろん、入浴しないとおかしくなりそうだった。コロナ禍になると、あらゆる場所に消毒液が置かれるようになって、世間の衛生観念が向上してよかったと一時的には思っていた。それが、スーパーでのこと。