続いて、体形について。今泉さんは「パンダのどっしりした体は、地面をノソノソ歩くのに適した原始的な形」と評する。
弱肉強食の世界に身を置くと、動物はスピーディーな身のこなしができる効率的な体に進化する。いっぽうパンダは、他の動物が見向きもしない硬いタケやササを食物にすることで競争を避けるという、マイペースでガラパゴスな生き方を選んだ。
◆頭に強靱な筋肉 細面から丸顔に
だが、相応の苦労はある。今泉さんが説明する。
「タケやササは栄養効率が悪いため、1日14時間かけて大量に食べなくてはなりません。栄養状態が良い動物園では遊具で遊ぶなど余暇の時間がとれますが、自然界ではそんな余裕はないです」
進化の末に前脚の骨がこぶのように出っ張ってできた「第六の指」で器用にタケを握り、左右の歯を交互に使って絶え間なくかみ続ける。咀嚼(そしゃく)のための強靱(きょうじん)な筋肉が頭全体についたせいで、本来は犬のような細長い頭蓋骨(ずがいこつ)を持つにもかかわらず、丸々とした顔になった。
涙ぐましい努力のもと、長年タケやササで命をつないできたパンダ。だが今泉さんは最後に、「本当は今でも肉が好き」という衝撃の事実を明かした。
「野生では、タケネズミという大型のネズミを捕まえようと土を掘ります。あのスピードじゃとても捕まらないですけれど。でも、パンダのふんを調べると1~2%ほど動物の骨が混じっているから、誰かのおこぼれを拾って食べているんでしょうね。動物園では、栄養補助のために馬肉スープを与えることもあります」
かつて、パンダの生態調査に訪れたアメリカ人の研究者が、森でステーキを焼いたところ、匂いを嗅ぎつけたパンダがテントに飛び込み、大暴れした事件もあったという。
恐る恐る、今泉さんに尋ねてみた。
──タケと肉が両方あったらどちらを食べるでしょう?
「肉だろうね(笑)」
──パンダは実は凶暴?
「めったにないけど、怒るとものすごく凶暴。動物園で柵に寄り掛かった人を引きずり込もうとしたパンダもいました」
──考えたくないですけど、人を襲うパンダが生まれる可能性も?
「そうですね」
そう聞くと、パンダも野生の牙を隠し持っていることを認識させられるが、基本的には争いのない世界で生きてきた動物で、「珍しいほど穏やか」(今泉さん)。
怒らせない限りは、これからも脱力系の「かわいい」で、われわれを癒やし続けてくれるはずだ。(本誌・大谷百合絵)
※週刊朝日 2022年1月21日号