「学校や塾も旧態依然としたやり方で指導していては、結果的に子供の自尊感情を傷つけてしまうと思います。努力で勉強を乗り切ろうとさせず、勉強への向き合い方を教えてあげたり、実際の医者の世界について教えてあげたりするなど、広い視野を与えるようなアドバイスが重要だと思います」
そして、改めて「医者ほど大学名が役に立たない分野はない」と強調する。和田氏によると、医療分野における学歴主義からの脱却の転換点となったのは、2004年の「臨床研修制度の必修化」だという。制度の導入前は、東大病院をはじめとする複数の名門病院では、東大卒業生以外が研修医として入るのは難しい状況だった。だが、必修化以降は大学名ではなく、大学の成績が重要視されるようになったのだという。
「結果的に、希望の病院で研修をするためには、偏差値の低い大学のほうが(相対的な成績が高くなり)、かえって有利になることもある。東大理IIIに入れる実力があったとしても、あえて下の大学に行ったほうが得をする可能性もあるのです。その後の病院の出世や大学教授へのなりやすさも、必ずしも偏差値の通りになっていない。ほかの学部なら官僚になりやすい、会社で出世しやすいといったように学歴が有利に働く状況も多少はあると思いますが、医学部の場合は、たとえば東北大や慶応大と比べても、東大出身者が医者として出世できるとは言えません。ある意味で、東大の中では医学部が一番割に合わないと思います」
先を見通す広い視野を持っていれば、人生に絶望することも、過度のプレッシャーを感じることもなかったのではないか。
「ほとんどの医学部受験生たちは入学後の事情を知らず、少しでも偏差値の高い大学に入りたい。保護者も同じで、医者の世界を知らないまま学校名にこだわっている親は多いと思います。理IIIを輩出するような塾では毎日5時間もかかるような膨大な量の宿題が出されることもあり、受験生には世の中のことを知るための時間がない。実際、東大医学部に入る学生たちの多くは、世の中のことを知らないまま勉強をしてきた人が多いと感じます。だからこそ、受験生にはその狭い視野を広げる大人の存在が必要なのです」
事件を起こした少年にそうした大人の存在がなかったのだとすれば、残念に思えてならない。(AERA dot.編集部・飯塚大和)