よい素材提供する使命
——「+α」の部分での手応えを感じたところはあるかと尋ねると、俳優としての哲学を感じさせる答えが返ってきた。
僕が感じる手応えというか、「いいシーンが撮れたね」とスタッフの皆さんに言ってもらえるシーンはありました。それはうれしかったですけれど、まだ編集し終わったものを見たわけではないから、あくまでも個人的な感想をもらっただけなんですよね。と、僕は思う。決して突き放すような意味じゃなくて、僕らは素材としてよりよいものを提供することが役割というか、使命なんです。それをどうするかは、最終的に監督だったり編集マンだったりの手によって変わっていくものだと理解しているんですね。
逆に言えば、役割分担が違うだけで、同じ作品を作っているチームのピースという意味では、スタッフも演者も境はないはずなんです。
——だからこそ、与えられた役を魅力的に演じる上で一番大切にしているのは「現場の空気感」だという。真ん中にいる人間がそう心掛けているからこそ、次々と面白い作品が生まれているのかもしれない。
俳優として事前にどれだけ準備できるかということももちろん大切です。だけど、結局、「本番!」とカメラが回った瞬間に僕がしょうもない芝居しかできなかったら、すべてが無駄になる。その一瞬に、スタッフ、キャスト、一人一人がそれぞれの役割をしっかり果たして、僕と一緒にいい仕事をしようと思ってもらえる空気感ができているかどうか。それを作ることも自分の大切な仕事だと思うんです。
これは経験を積んでいくなかで、徐々に思うようになったことです。僕が好きな先輩方は現場を大切にしたり、スタッフを大切にしたりする方が多かったので、自然と身についた感覚だと思います。
——松本自身は“ヒーロー”と聞いてどんな人物を思い浮かべるのか。
ヒーロー……AERAだもんな(笑)。いや、今パッと浮かんだのはネルソン・マンデラだったんですけど、もっとエンタメ向きの人を挙げたいな。『ドラゴンボール』の孫悟空とか『ワンピース』のルフィとか言っておきたいですね(笑)。「ヒーロー」と「憧れ」は自分の中ではちょっと違ったりもして。ヒーローは自分一人のものではなくて、人に多大な影響を与えているイメージがある。大勢の人を抱えて街を救うスーパーマン、そういうイメージですね。そんな人って誰だろうなと思い浮かべた結果、いろいろ混ざりあって、悟空が出てきた感じです(笑)。