うつ病、統合失調症、不安症といった精神疾患は、何が原因で発症するのでしょうか? 海外の研究では精神疾患を持つ人の半数は10代半ばまでに発症しており、全体の約75%が20代半ばまでに発症しています。精神科医で東京都立松沢病院院長の水野雅文医師が執筆した書籍『心の病気にかかる子どもたち』(朝日新聞出版)から一部を抜粋してお届けします。
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精神疾患では、「脳」の機能と心の働きに支障が出ます。
脳は、体全体をコントロールする「司令塔」のような役割をしています。呼吸をしたり、心臓を動かしたりといった、命にかかわる指令だけでなく、「情報を認識する」「考える」「判断する」「意欲を生み出す」「感情や行動をコントロールする」といったこともすべて脳の仕事。脳のさまざまな領域がつながって情報を伝えあうネットワークを形成し、複雑な心の働きを可能にしているのです。
精神疾患は、脳の構造や機能が不調を起こして、脳本来の仕事が十分にできなくなり、さまざまな症状が現れる病気です。「心の病気」とも言われるのは、脳が気持ちや感情といった「心(精神)」の働きも担っているから。精神疾患は「脳の病気」であり、「心の病気」でもあるのです。
「精神疾患」はさまざまな病気を集めたグループ名のようなもの。よく知られている病気にうつ病や認知症がありますが、てんかん、統合失調症、摂食障害、双極性障害(躁うつ病)、パーソナリティ障害、パニック症や社交不安症などの不安症、発達障害、強迫症、睡眠覚醒障害、ゲーム依存やアルコール依存、薬物依存といった依存症も精神疾患です。
■なぜ精神疾患になるの? ― 原因―
精神疾患の多くは発症原因がはっきりとはわかっていません。
これまでの研究から、▽情報を伝達する役割を果たしている神経伝達物質 ▽性格▽育ってきた環境 ▽現在置かれている環境 ▽生活習慣 ▽ストレスに対する弱さ▽遺伝的な要因といったさまざまな要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。