駒場東邦中の教室
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 トピックの一つ「ファーストジェントルマン」は、「女性大統領の夫」を意味する。米・バイデン大統領の妻ジル・バイデン氏がファーストレディーになっても仕事を続けた一方で、カマラ・ハリス副大統領の夫がセカンドジェントルマンになって法律事務所の仕事を辞めた米国の事例などを示しながら、「自分がもしファーストジェントルマンの立場なら、妻を支えるために仕事を辞める? 自分の仕事を継続する?」といった問いが授業では投げかけられた。

 もちろんこの問いに正解はない。中学生はさまざま想像を巡らせる体験を楽しんだようだ。「友人に質問して答えを聞いたら、結論と自分の偏見にびっくりした」「選択は違っても共感できる意見があった」などの感想が授業後に寄せられた。

「ディズニープリンセスの変遷」では「プリンセスらしい」と思う要素を書き出してもらい、ディズニーの歴代プリンセスがそれらに当てはまっているかをチェックしていった。

■自分の先入観に気づく

 シンデレラや白雪姫など過去のプリンセスと、「モアナと伝説の海」のモアナや、「アラジン」のジャスミンなど近年のディズニーヒロインを比較しながら、肌の色、髪の色もさまざまで、正義感やリーダーシップ、自立心が強いプリンセスが登場していることを大学生が紹介した。

「プリンセスといわれると華奢(きゃしゃ)な女性を思い浮かべてしまっていて、その考えも差別的だったんだなと気づきました」「プリンセスが時代の変化を反映した作品になっていたことに驚いた」(いずれも授業後のアンケートから)

 と中学生たちは自分の中にあった先入観に気づいたようだ。

 授業に先立って中学生が回答した事前アンケートでは、「今の日本にジェンダーギャップがあると思いますか」の質問に「ある。国会議員に男性が多いから」など、「ジェンダー」がどこか遠い、教科書の中の話であるような感覚を持っているように見受けられた。それが授業後は「自分の身の回りに無意識のバイアスがあることに気づいた」と語る生徒もいて、狙い通りの効果があったようだ。

 授業準備の過程では、大学生側も学ぶことが多かったという。中学から大学までずっと女子校育ちという3年生の太田優菜さんは「自分にはバイアスはないと思っていたけど、そうではなかったと気づきました。王子様のいないプリンセス、自ら発信するプリンセスなどもいます。女性の社会進出が進んでいると授業で習ってはいましたが、アニメにも反映されていることに初めて気づきました」。

 小森さんは大学で「女性のキャリア形成とビジネス」など必修のキャリア授業も教えているが、学生から「男性にもこの授業を聞いてほしい」との声が寄せられることが多いという。女性だけの力では社会を変えることは難しい。「進学校の男子生徒にこうした形でリーチできるのは嬉しい」と期待を寄せた。

(編集部・高橋有紀)

AERA 2022年1月31日号より抜粋

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