(c)くらもちふさこ/集英社 『くらもちふさこ全集2 わるいおとこ』より「チープスリル」
(c)くらもちふさこ/集英社 『くらもちふさこ全集2 わるいおとこ』より「チープスリル」

 絵でもそうなんですが、昔の絵に ついて審査員の先生に「かっちりとして味気ない」という評価をもらったことがあって、今見るとそう言われたことがよくわかるんです。当時は個性もなかったですし。

 それからは自分が作ったものを壊したくなるというのかな。かっちりした自分の表現を壊したくなるというか――それは遊び心につながるような気がします。カチッとした絵を観ると、「緻密できれいだ」と思うんですが、自分が同じものをめざして描いても面白くないな、と思っちゃう。もともとかっちりしたものしか描けない自分だからこそ、壊したらどうなるんだろう?というところに、ひかれるんです。

――くらもちさんは絵柄もどんどん変わって、物語とあいまって「これしかない」という表現になっています。「今ある表現を壊してみたい」とは、「新しい表現に挑戦したい」ということですか?

 そうですね。自分の中に眠っているものがあって、まだ目覚めていないのならば見てみたい――という気持ちでしょうか。「何もないかもしれないけれど、あったら見せて」って。

 描いている時点で、ある程度まで完成された絵については、正直、満足しているんですよ。それで「ああ、たぶん私はこの絵でずっと行く」と思うんです。そう思いながら描いているんですが、しばらくすると、その絵に満足しなくなってくる――なぜかわからないんですけど。

(c)くらもちふさこ/集英社 『くらもちふさこ全集2 わるいおとこ』より「チープスリル」
(c)くらもちふさこ/集英社 『くらもちふさこ全集2 わるいおとこ』より「チープスリル」

 理由はわからないんだけれど、自分の気持ちに対しては素直でいたいので、「ああ、また壊しにかかりそうだな」って。でも本当に、その絵柄が頂点に達するまでは、満足しているんです。だから読者に対して裏切った気持ちもなく、その絵を嫌いになったわけでもないんです。

 もう一つは、次に描くテーマにとって「この絵でいいのかな」とは考えますね。

――語られる物語にふさわしい絵が必要になることもあるんでしょうか。

 初めて絵が変わったと言われたのは『いつもポケットにショパン』で、それまでと同じように自分で描いていたんだけど、乱暴になったとか、アシスタントに描かせているんじゃないか、とか言われれました。でも鍵盤の上を動いている指などは、丁寧な線でキレイに描かれる表現よりも、クロッキーのように描く表現のほうが良いと思ったんですよね。自分では絵を変えているつもりはなかったんですが、そうした一つひとつの選択が、読者の方にとっては絵が変わったという印象になったのかもしれません。

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