精神疾患の治療の目標は、こうした「リカバリー」に向けた状態になること。自分自身が「回復している」と実感できることが、大切なのです。
■精神科の診察方法とは
精神疾患を専門的に扱うのは、精神科です。精神科の診療風景は、内科や外科、眼科といった、みなさんがよくかかる診療科とは少し異なります。たとえばおなかが痛くて内科を受診すると、いつからどのように痛いのかといった問診やおなかを触って調べる触診に加え、超音波やX 線、CT(コンピューター断層撮影)などの画像検査や血液検査など、「検査」が行われるのが一般的です。検査の結果から病気を絞り込むなど、検査は病気の診断には欠かせないツールになっているわけです。
しかし精神疾患の多くは、こうした画像や検査結果で異常を見つけることはできません。どんな機器でも、心の中をのぞくことはできないのです。
精神科の診察では、患者さんの体験を言葉で語ってもらう「問診」が、重要な役割を果たします。患者さん本人だけではなく、ふだんの様子をよく知る家族の話も参考にします。具体的にどのようなこと(症状)で困っているのか、その症状はいつ頃から出ているのか、どんな対処をしてきたのかといったことや、症状が起きる前にどのような生活の背景があって、ほかに体や気持ちの変調はないかといったさまざまな情報を集め、その情報をもとに病気を診断しています。
※『心の病気にかかる子どもたち』(朝日新聞出版)より抜粋
水野雅文(みずのまさふみ)
東京都立松沢病院院長 1961年東京都生まれ。精神科医、博士(医学)。慶應義塾大学医学部卒業、同大学院博士課程修了。イタリア政府国費留学生としてイタリア国立パドヴァ大学留学、同大学心理学科客員教授、慶應義塾大学医学部精神神経科専任講師、助教授を経て、2006年から21年3月まで、東邦大学医学部精神神経医学講座主任教授。21年4月から現職。著書に『心の病、初めが肝心』(朝日新聞出版)、『ササッとわかる「統合失調症」(講談社)ほか。