東京都立松沢病院院長の水野雅文医師
東京都立松沢病院院長の水野雅文医師

 うつ病、統合失調症、不安症といった精神疾患は、適切な治療を受けていても、回復にある程度時間がかかります。再発するケースが多いため、「治癒」という表現をあまり使いません。精神科医で東京都立松沢病院院長の水野雅文医師が執筆した書籍『心の病気にかかる子どもたち』(朝日新聞出版)から一部を抜粋してお届けします。

【精神疾患、早期症状チェックリスト】

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 精神疾患が回復していく経過は個人差があるものの、通常はある程度時間がかかります。右肩上がりの一直線ではなく、調子が良い日が続いたあとに少し後戻り……というように、症状が波のように上下しながら一進一退を繰り返し、徐々に改善していくイメージです。

『心の病気にかかる子どもたち』(朝日新聞出版)より
『心の病気にかかる子どもたち』(朝日新聞出版)より

 調子のよい日が続いたからといって、「もう治った!」と自分で判断して無理をしたり、薬をやめてしまったりすると、症状が悪化して回復までに余計に時間がかかってしまうこともあります。焦ることなく治療を続ける必要があるのです。治療が長期にわたるだけに、家族や教師、友人など周囲の理解も欠かせません。

 周囲の人が温かく見守り、必要に応じて手を差し伸べることが、回復に向けた原動力になるはずです。

 精神疾患は再発するケースが多いため、「治癒」という表現をあまり使いません。よく用いられるのは「寛解(かんかい)」という言葉で、症状がなくなり安定した状態を意味します。経過観察や再発予防のための薬の内服を続けながら寛解を維持し、そのままずっと再発することがなく、病気になる前と同じように生活している人はたくさんいます。

 その一方で、ある程度回復はしたものの、何らかの症状が残り、以前と同じ生活が難しくなるケースもあります。しかし症状はあっても家事や仕事ができるようになったり、自立して暮らしていけるようになる、さらに言えば夢や希望をもって主体的に生きていけるようになる――という面では、十分に「自分なりの回復(パーソナル・リカバリー)」を果たしていると言えるでしょう。

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