■本は特別なものになる
ブレイディ:そうですね。イギリスは公立でもいろんな学校がありますが、息子の学校は特別だと思うんですよ。校長先生、めっちゃ元気ですからね。その元気が彼の中にもあって。だから、そういう教員を選んでいるし、子どもたちが話し合う時間に授業を割いている。日本の教育でおかしいのは、子どもがいつも聞いてなくちゃいけない。子どもが吸収するだけで放出させられないというのは、そこがもう民主主義じゃないですよね。
高橋:おかしいよね。
ブレイディ:自分の考えを言える機会を作らないと考えなくなる。イギリスでは小学生でも授業で話し合いをします。「将来、本はなくなるか」とか。最後にみんなそうだよねって言ったのは、いろんな文章をネットで読めるから、本はただ単に読むだけのものではなく特別なものになるだろうって。小学6年生が。
高橋:すごい。でも公立だからカリキュラムはあるんですよね。
ブレイディ カリキュラムはあるけど教科書がないんです、イギリスって。先生たちがそれぞれの工夫でやるのでその中で話し合わせる時間を作っている。子どもたちに話し合わせるって、『「ことば」に殺される前に』で源一郎さんがツイッターに期待していたような状況ですよね。議論をして自分の思っていることを言い、説得しあうみたいなことを学校でやっていくことって大事ですよ。
高橋:ブレイディさんの本を読むとイギリスの公教育は日本のオルタナティブ教育にしか見えないんですが(笑)。日本がなぜそうなり得ないのかと考えたら、その方が日本の子にとっては楽だからかもしれない。暗記して点を取っていれば誰も文句を言わないし、試験に受かる。自分の勉強をするので精いっぱいだって思っている子にとっては、ある意味楽ですよね。
ブレイディ:でも人間はできると思いますよ。小さいときからやっていれば、絶対できる。だってこっちでは託児所から始めているから。
高橋:結局、そこに戻っちゃうんですよね。
(構成/編集部・三島恵美子)
*この対談は、朝日カルチャーセンター横浜教室で行われた講座を採録したものです。
※AERA 2022年2月21日号より抜粋