■無類のバットスピードを武器に
バッティングの話から取材を始めると、熱のこもった言葉が次々と紡がれる。滑らかな口調は自信の表れとも感じられた。そして、その内容は汎用性の高い打撃の基本のようにも思えたが、よく考えれば実にユニークな部分も盛り込まれていた。筆者が特に気になったのは「変化球を待ち、直球にも対応する」という部分である。速いストレートを想定しておき、緩い変化球がきても対応できるようにしておくというのが一般的な打者の対応に思えるからだ。
「直球を待っている時、変化球がきてそれに対応しきれず泳がされることってあるでしょ? じゃあ、最初から変化球を待ってて、速い球がきたらバットスピードで打てるような打撃をしていこうかなと思うようになったんです。この待ち方は確かに普通とは逆。速い球がくるでしょ? でもバットスピードがあれば、キャッチャーミットへ収まる直前にバットを出してバーンと打っても、三塁ベースの横を抜けるような強い打球になったりもする。このバッティングができるようになって打率が上がっていったという感じかな」
打者として最大の強みだと本人も認めるバットのスピード。その速さにどれだけ自信を持っていたかを聞くと、しばし考えた後、こう答えた。
「うーん、王(貞治)さんはやっぱりすごい打者でしたよね。軸足に力入って、構えだけで迫力あったし。だけど僕とは全然違う打ち方だし、王さんはバットを払う感じでとにかく引っ張るというスタイル。そうだねえ、バットスピードってことでいうと、俺は誰にも負けてなかったかもわからないですね」
ヤクルト入団以前はガンガン引っ張る打撃が好きで長打を持ち味としていた若松。その調子でプロ入りしたものの、初めてのキャンプで「そのままでは通用しない」と指導された。
「プロの速い球を引っ張っていたら全部、ファウルになっちゃって。どうすればいいですかとコーチの中西(太)さんに相談したら、下半身を徹底的に鍛え、下半身で打つようにしなさいと言われてね」