このような騒動が発生しなかったとしても、そもそもの手続き自体が面倒だ。
埼玉県に住む52歳女性も不満を漏らす。
「転勤族だった亡父は、あちこちの地方銀行で口座を作ってヘソクリを貯め込んでいました。想像以上に大変だったのが解約と換金の手続き。各行に連絡して所定の用紙を取り寄せ、戸籍謄本、法定相続人全員の印鑑証明を添付して郵送しました。ある銀行からは手続きから1カ月近く経ってから、故人の氏名記載に誤りがあるとダメ出し。普段、亡父は私の名前を『恵』という字で表記していましたが戸籍上は『惠』だったのです」
存命中にキャッシュカードの暗証番号を聞き出しておけばよいのでは、と思いがちだがここにも落とし穴がある。口座名義人の死亡を金融機関に知らせないままお金を引き出すと、「相続の単純承認(負の遺産を含めたすべてを受け継ぐとの意思表示)」とみなされる可能性があるのだ。ヘソクリなら“プラスのお金”なのでいいが、もし親がマイナスのお金──たとえば秘密の借金を持っていた場合に放棄できなくなる。
よって、親の死亡はきちんと金融機関に伝えたほうがいいわけだが、伝えた時点で預貯金口座は凍結される。中のお金を引き出すには戸籍謄本などさまざまな書類が必要になる。
その戸籍謄本に関しても「故人の出生から死亡までの連続した情報が記載されたもの」を揃えねばならない。“出生から”となると、郵送手続きも増え、入手に苦労するはずだ。
(金融ジャーナリスト・大西洋平、編集部・中島晶子)
※AERA 2022年2月28日号より抜粋