いつかは訪れる親との死別。何も準備しないままその日を迎えると、子どもはさまざまな手続きに苦労する。AERA2022年2月28日号では、実体験者の声を取材した。
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育ててくれたことに感謝している。なのに、親から頻繁に連絡があると、ちょっと面倒になる。「忙しい」を理由に、こちらから気遣うこともなんだか減った。でもいつか、親はこの世を去る──。
丸2年が経つコロナ禍で、人との接点が減ることに慣れてしまった。それは自分の親も例外ではないかもしれない。
親が亡くなると、相続や死後事務などの手続きは膨大だ。もし親が自分の死後の準備、いわゆる「終活」をおろそかにしていると、「LINEのこまめなやりとりが面倒くさい」程度の話では済まない煩雑な手続きが、あなたに降り掛かる。
大半の高齢者が「遺族には迷惑をかけたくない」と考えている。だが、実際にきちんとした終活をしている人は少ない。親を亡くした経験のある複数の人に話を聞くと、「遺品の中から出てきたエンディングノートにはほぼ何も書かれていなかった。購入しただけで満足したのかも」と切なくなる声も。また、「我が家は相続税とは無縁」と思ったのか、金融資産のリストを作っていない人も多かった。
まずは相続と死後事務に関する基礎知識を、経験者の話を交えておさらいしよう。
通帳未記入で残高不明
相続税の基礎控除は「3千万円+(600万円×法定相続人の数)」だが、たとえ相続税が非課税でも遺産の整理や対処を巡って子どもが翻弄されることが実に多い。
東京都在住の56歳男性が言う。
「父の遺品を整理していて預貯金の通帳の束が見つかったのですが、きちんと記帳されていませんでした。その残高の確認にも骨を折ったうえ、住宅ローンを完済していなかったことも発覚。母には退職金で繰り上げ返済したと偽っていたようです」
しかも、団体生命保険は80歳の時点で保障期間がすでに終了。狂乱のバブル期に組まれたローンだったせいか、保障終了後も返済が続くという異様な組み方をしていた。結局、実家を売却してローンを返済し、母親を呼び寄せて同居することに……。