俺は中学生のころから相撲部屋で生活していたから、金銭面も勘違いが多かったんだよね。年齢でいえば中学・高校生の10代のころから錦糸町で映画を見て、中華を食って、タクシーで帰るのが当たり前だった。道でタクシーを止める中学生なんか、今見たら生意気だね(笑)。でも、先輩もみんなそうしているし、それが当たり前だと思うよね。そんな両国界隈でずっと暮らしていたもんだから、結婚してからは大変だったよ。俺じゃなくて女房がね。ずっと相撲取りだった俺は衣食住に金がかかるなんて感覚がなかったから(笑)。

 しかも、結婚して最初に住んだのが西麻布で、近所のスーパーマーケットも高級スーパーだから、何を買うにも高い! そんな状況だから女房はやりくりにだいぶ苦労したようだ。少しでも値段の安いスーパーへ遠くまで歩いて行ったり、俺のために大量の食材を抱えて長い坂道を毎日登ってね。

 俺もそんな女房の苦労がわかってきて、プロレスのギャラが上がったときは喜んでもらえるもんだと思って得意気に「ギャラが2000円上がったよ!」と報告したんだ。そしたら女房が「子どもの小遣いじゃないんだから、2000円ぽっちで馬鹿にするな!」と怒る怒る! これは俺の伝え方が悪かったんだけど、ギャラは1試合2000円アップして、年間200試合すると結構な額になるんだ。総額を伝えればよかったんだけど、女房からしたら月収が2000円上がっただけだと思ったんだろうね(苦笑)。

 初めてクレジットカードを持ったときも女房に「このカードは現金が減らなくていいな!」と本気で言って怒られたこともあった。いやあ、俺の勘違いもあって、女房にはいろいろと苦労させてしまったね。みなさんも勘違いをさせ家族関係を壊さないように、伝えることはしっかり伝えた方がいいよ。特にお金のことはね!(笑)

(構成・高橋ダイスケ)

天龍源一郎(てんりゅう・げんいちろう)/1950年、福井県生まれ。「ミスター・プロレス」の異名をとる。63年、13歳で大相撲の二所ノ関部屋入門後、天龍の四股名で16場所在位。76年10月にプロレスに転向、全日本プロレスに入団。90年に新団体SWSに移籍、92年にはWARを旗揚げ。2010年に「天龍プロジェクト」を発足。2015年11月15日、両国国技館での引退試合をもってマット生活に幕を下ろす。