50年に及ぶ格闘人生を終え、ようやく手にした「何もしない毎日」に喜んでいたのも束の間、2019年の小脳梗塞に続き、今度はうっ血性心不全の大病を乗り越えてカムバックした天龍源一郎さん。人生の節目の70歳を超えたいま、天龍さんが伝えたいことは? 今回は「勘違い」をテーマに、つれづれに明るく飄々と語ってもらいました。
* * *
勘違いで真っ先に思い浮かぶのは、土俵の大きさだ。俺は入門して半年くらいは「俺ら下っ端の取り組みが終わると、幕内からは土俵が大きくなる」と思っていたんだ。まさか、俺ら下っ端と横綱、大関が同じ大きさの土俵で相撲を取っているなんて思ってもみなかった! 土俵の大きさが変わらないと初めて知ったときは、ビックリしたよ!(笑)
土俵に立つと不思議なもので、実力差がある力士と対戦すると、たった数センチが動かせない。相手と組んで、目の前に俵が見えているんだけど、そこまでなかなか行けないものなんだ。
同じ二所ノ関部屋の横綱・大鵬さんはよく「按摩(あんま)」という、体をほぐすために若手とぶつがり稽古をしていたんだけど、そのときに自分の足のところに印をつけて「ここから少しでも動いたら一万円やる」と言うんだ。若手はみんな目の色を変えてぶつかるんだけど、ぴくりとも動かない。ぶつかった若手をちぎっては投げ、ちぎっては投げ。俺もぶつかって「こんなに違うのか!」と驚いたよ!
大鵬さんにぶつかった印象は“柔らかい”んだ。こちらの力を吸収して、簡単に投げられる。その逆が大鵬さんと“柏鵬時代”を築いた横綱の柏戸さん。柏戸さんはぶつかるととても固くて、首をねん挫するくらい衝撃があった。二人はこういった面でも対照的だったんだね。
プロレスに転向してから勘違いに気づいたのは“ロープワーク”だね。転向する前は「あんなの、ビューってやりゃあいいんだろう。簡単だ」ってナメていたんだが、実際に初めてやったときはロープに弾き飛ばされてしまった(苦笑)。