※写真はイメージです (GettyImages)
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 このまま認知症が改善に向かってくれるといいけれど……と彼女は、母親との毎日の会話を楽しみにしている。

「でも困ったことがあるんです。私はもう症状もなく陰性になり、仕事も始めてるんですが、それが母に言えてないんです」

「『今はどう?』『少し楽になった?』と私の症状を聞くのが張り合いになり、それがきっかけで、認知症も良い方へ向かっているのに、『もう治った』と言ったらまた、症状が悪化し、私の名前も忘れるんじゃないかと思って」

 なるほど。コロナのせいで、施設にいる高齢の両親と会うこともできない。やっと面会が許されても十分か十五分。自宅にいる高齢者も、デイサービスが少なくなり、人と会わないから、どんどん認知症が進む。コロナで認知症がどれだけ増えたか。

 その中で彼女の話は、救いであった。

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

週刊朝日  2022年3月11日号

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