「先日も、がんになった社員の一人と治療費について話をしたのですが、傷病手当や高額療養費制度の活用や生命保険の見直しなど、“日ごろからの備えは必要だね”って言っていたんです。冊子では治療費についても触れているので参考になります」
前出のがんと働く応援団では、がん治療と仕事の両立を目指し、一般企業向けの社員研修もしている。その研修を受けたのが、あいおいニッセイ同和損害保険の北関東を担当する社員たちだ。この地域を担当する執行役員の三島謙一さんは、がんを患っている家族や部下がいる。そうしたこともあって「がんの防災」という言葉に興味を持ち、吉田さんに連絡をして冊子を取り寄せたという。
「例えば、冊子にはがんに対する4大誤解というページがあり、“標準治療=平凡な治療ではない”“ステージ4=余命数カ月と誤解しない”との記載があります。いずれも基本的な情報ですが、正しく整理された知識を持っておくことは大事だと思いました」
研修では、「自分ががんになった」、あるいは「がんになった部下から相談を受けた」というロールプレイングを実施。体験した社員の多くが口にしたのが、「(知人らに)がんだと告白されたときに、どう返していいかわからない」「いい返事ができない自分が情けない」というものだった。
研修では、相手の話を聞く“傾聴”の大事さも感じたという。
「何か話したいけど、言葉が出てこない。その体験自体がセミナーの真骨頂だと思いました。これはがんに限らないことで、相手の立場を考えることの大事さを知るいい機会になりました」(三島さん)
がんは、ひとごとではないと吉田さん。「興味がない人でも、まずは冊子の最後のほうに載せている『がん防災チェックリスト』だけでもやってほしい」と訴える。

日本人はがん予防には熱心だが、実際にがんになったときの備えは十分ではない。多くのがんが予防できないことを踏まえたら、周回遅れにならないよう、がんの備えを今から始めたい。(ライター・山内リカ)
※週刊朝日 2022年3月18日号