「実は、患者さんやサバイバー(経験者)は、がんとともに生きるための日常の工夫や、困ったときの解決法を実によく知っています。にもかかわらず、そういうことを周りが知らないのは、がんの患者さんは“かわいそうな存在”と思われているので、自らがんであることを隠しているからなのです」
この状況を押川医師は「もったいない」と話す。
「そうした工夫や知恵は、みんなで共有したほうがいい。がんになる前にこそ、そういう知識を得て備えておきましょうというのが、がん防災という考え方の原点です」
この考え方に共感し、全28ページの冊子を作ったのが、一般社団法人「がんと働く応援団」だ。制作に関わったなかには、がんサバイバーもいる。代表理事の吉田ゆりさん(40)は卵巣がん、副理事長の野北まどかさん(49)は乳がんを経験している。

2人はがんに対するさまざまな取り組みを行うNPO法人キャンサーネットジャパンのセミナーを通じて知り合った。たまたま席が隣同士になった2人。
「がんが見つかったときにもっといろんな情報がほしかった」
「情報がコンパクトにまとまったものがあったらいいよね」
日ごろ思っていることが次々と言葉になってあふれた。吉田さんが言う。
「私たち自身、がんについて学ぶ機会も知る機会もないまま、ある日突然、当事者になりました。そのときに困ったのは、誰に相談すればいいかとか、仕事と治療をどう両立すればいいかとか、直接、治療とは関わらないところの問題でした」
その言葉に「そうそう」と大きくうなずく野北さん。一方で、サバイバーとしてそういう情報を発信したくても、健康な人からは嫌がられてしまうという、“深い溝”を感じたという。
「がんは重大な病気で、ならないほうがいい。私自身もがんなんて縁起が悪いと思っていました。だからこちらが一生懸命発信しても健康な人たちは聞く耳を持ってくれない。それをどうすれば解決できるか、ずっと吉田さんと話していました」