◆棚に置いておき何かあれば見る
がんになったら必要な情報がほしい。でも、がんではないときはそういう情報には興味がない。この「がんあるある問題」を解決する案として浮上したのが、押川医師の提唱するがん防災だった。
一般社団法人を立ち上げた2人は、しばらくして押川医師にコンタクトを取り、がん防災の冊子を作りたいという思いを伝えた。
「あっても読まないけれど、とりあえず棚にしまっておいて、いざというときに開く。タウンニュースの防災マップのようなものをイメージしました」(野北さん)
そして21年4月に完成したのが、「がん防災マニュアル」だ。がんと働く応援団のホームページから申し込める(1セット3冊。無料だが配送料など280円はかかる)。またPDFであれば無料でダウンロードが可能だ。興味を持つ企業が社員向けに大量に申し込むなど、1月中旬時点で8万部ほど配布されたという。
冊子は、がんの基礎知識や予防、検診、治療費をサポートする制度などが紹介された「普段の備え編」と、医師との付き合い方や治療法、仕事との両立、相談先などが載っている「いざという時編」の2部構成になっている。
がんの本といえば、治療法が詳しく載っているイメージがある。しかし、冊子では治療に関して、「手術、放射線、薬物療法の3大治療があり、進行度(ステージ)などに合わせて治療法が決定する」という程度しか紹介されていない。それは、同じがんという病気でも、治療法は十人十色。自分のがんについて詳しく調べたいのであれば、やはり専門の本やウェブサイトを見たほうがいいと考えるからだ。
それよりも伝えたいのは、“医師とコミュニケーションを取ることの重要性”。そのため医師にお任せの治療にならないためのノウハウは、わかりやすく紹介されている。
さらに、知人のおせっかいなアドバイス(サプリや“エセ治療”を勧めるなど)への対応や、ネット情報を得ることのリスク、怪しい治療の見分け方といった貴重な情報が網羅されている。これらは実際にがんを経験している人が関わったからこそわかる内容だ。