■「ゆとり」とビジネスに対応
JR東海は<のぞみ>のデビュー以降、16両編成の定員を1323人に統一、ビジネス客向けに利用しやすい環境を整備していく。国鉄末期の最高傑作といってよい100系の目玉であった2階建て車両の食堂車、グリーン個室といった“ゆとり”がそがれてしまう展開となった。
現在、東海道新幹線における“最大のゆとり設備”といえるのは、コンセントだろう。700系の増備途中から一部の席に設置し、N700系ではグリーン車全席と普通車の窓側席、最前部と最後部の全座席に拡大、N700Sでは全席装備となった。
コンセント設置当初はノートパソコンの充電に重宝していたが、現在はスマートフォンの充電で使う乗客が多く、東京から京都に着くころにはフル充電も容易である。
“もうひとつのゆとり”として、<のぞみ>に「ファミリー車両」が登場した。2010年の夏休みに貸し切りのファミリー列車を運行したところ好評を博したことから、<のぞみ>に導入される運びとなった。家族連れ専用席にすることで、気兼ねなく、くつろげるのがウリだ。多客が見込まれる時期に設定されている。
ビジネス客向けの“ゆとり設備”では、2021年10月1日よりN700Sの7号車を「S Work車両」という“車内特化型オフィス”に設定。2022年春以降には打ち合わせなどができるビジネスブースを試験的に導入する。
<のぞみ>が登場して30年。これからも大都市同士を結ぶ大動脈、人々の夢と希望と未来への架け橋、旅の思い出を作る列車として、光り輝き続ける。(文・岸田法眼<取材協力:東海旅客鉄道>)
〇岸田法眼(きしだ・ほうがん)/『Yahoo! セカンドライフ』(ヤフー刊)の選抜サポーターに抜擢され、2007年にライターデビュー。以降、フリーのレイルウェイ・ライターとして、『鉄道まるわかり』シリーズ(天夢人刊)、『論座』(朝日新聞社刊)、『bizSPA! フレッシュ』(扶桑社刊)などに執筆。著書に『波瀾万丈の車両』『東武鉄道大追跡』(アルファベータブックス刊)がある。また、好角家でもある。引き続き旅や鉄道などを中心に著作を続ける。