批判されることが多い「させていただく」だが、それまで使われていた言い方が使いにくくなったことから、生まれた表現だ。

「敬意漸減(けいいぜんげん)の法則というものがあって、敬語に含まれている敬意は使われているうちにすり減っていきます。たとえば江戸時代“貴様”は目上の人への呼称でしたが、今では罵り言葉です。それまで使っていた言葉が物足りなくなると、新しい表現が生まれるのが必定。そこに良し悪しはありません」

 椎名さんは「させていただく」を問題系としてとらえ、約700人に意識調査をおこなっている。圧巻の調査結果を分析すると、相手から受けた恩恵よりも、謙虚な自分を表すために敬語を使う日本人の姿が見えてきた。今や「させていただく」は、相手への敬意(謙譲語)から、自分の丁寧さを示す敬語(丁重語)へと変容しているのではないか──と椎名さんは言う。

「言葉は生物(いきもの)だし生物(なまもの)ですから、時代と使う人の言語意識に合わせて変化していきます。“させていただく”もいつかは敬意漸減によって、物足りなくなり、別な表現が生まれるでしょう。そこに他者はどう関わるのか、どんな敬語の世界なのか、覗いてみたい気がします」

(ライター・矢内裕子)

AERA 2022年3月14日号

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