新型コロナウイルスのオミクロン株による子どもを中心とした感染が続いている。年度末に向けて、各地の学校で進級や卒業への準備が進むなか、休校や学級・学年閉鎖が相次いでいる。学びの機会が脅かされ、「教育格差」が拡大するのではないか? それに対し、『教育格差』(ちくま新書)を著した教育社会学者の早稲田大学・松岡亮二准教授は「コロナ禍によって長期的な教育成果の差が拡大するかはわからない」と、意外な見解を示す。その真意を聞いた。
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「教育格差とは、子ども本人が変更できない初期条件である出身家庭の社会経済的地位、出身地域、性別などによって最終学歴などの教育成果に差がある傾向を意味します。コロナ禍以降、『教育格差が拡大する』という前提の取材を多く受けてきました。しかし、今の20代や30代の世代にも教育格差はありました。今の子どもの世代における結果の差が上の世代の差と比べて明確に拡大するかはわかりません。拡大や縮小といった変化を追いかけるのも大切ですが、長期的に変わってこなかったことに目を向けることも重要ではないでしょうか」
松岡准教授はこう話す。
近年、「コロナの影響で仕事が減った」「経済的理由で学校や塾を辞めなくてはならない」など、家庭の経済状況の悪化が教育格差を広げるのではないか? という声が上がってきた。しかし、松岡准教授は、多くのメディアが「教育格差拡大」を訴えながら問題の本質を十分にとらえた議論がなされないことに忸怩(じくじ)たる思いを抱いてきたという。
「教育格差は、子どもの出身家庭の世帯年収だけでなく、親の学歴や職業などを含めた多面的・複合的な概念である『社会経済的地位』という観点で理解する必要があります。経済的側面だけではなく、文化的・社会的な格差があるわけです」
教育格差の問題が「子どもの貧困」と結びつけられ、クローズアップされるようになったのは日本経済の停滞が顕著になった2000年代以降。しかし、実際は、そのはるか以前から教育格差は存在してきたという。
「データで見るかぎり、戦後日本社会で育ったすべての世代において、出身家庭の社会経済的地位と最終学歴に関連があります。年齢層によって多少の変動はありますが、この傾向は維持されてきています。そして、よく知られているように、最終学歴は収入や職業、健康など、さまざまな格差の基盤となってきました」
日本は「緩やかな身分社会」――そう、松岡准教授の目には映る。