かつては「一億総中流」といわれた日本ですが、近年では経済格差の拡大を実感する機会が増えました。経済格差は、家庭の所得だけでなく、子どもの教育格差も引き起こします。どうすれば経済の影響を最小限に抑え、教育の機会均等を実現できるのでしょうか。教育経済学を専門とし、慶應義塾大学経済学部附属経済研究所で「こどもの機会均等研究センター(CREOC)」のセンター長も務める、赤林英夫教授に聞きました。

MENU 東京と大阪の高校無償化で新たな格差の可能性も? 自治体独自の経済支援対策、その効果は? 最大の課題「教員不足」には、「柔軟な採用」で対応

東京と大阪の高校無償化で新たな格差の可能性も?

 大学進学率が約6割と過去最高にもかかわらず、親の経済力の違いは、子どもの学歴や学力に影響を与え続けています。近年は、物価の高騰で家計が圧迫され、学費や下宿代を払えない学生も増えており、教育機会に不平等が生じないための政策の必要性が高まっています。

Q:教育経済学とは、どのような学問なのですか。

―― 教育経済学は、経済学的な考え方や手法を用いて教育格差や教育政策を分析する学問です。市場の競争原理や価格メカニズムなどの経済学の概念を教育分野に応用し、効果的な教育のありかた、政府の施策を検討します。

Q:経済効率やお金の概念を学校教育に持ち込むことに、抵抗を感じる人も多いです。

―― 日本では、教育にお金を絡めることを嫌う風潮があります。しかし教育が金銭的価値を持たないのであれば、学校教育を通じて貧困の解消をめざすことはできません。教育の機会を均等化しても経済格差が縮まらないのであれば、教育はお金に影響を与えていないことになるからです。

 教育には、「貧困から脱却し将来子どもが幸せに生きる」という目的があります。貧困の連鎖を断ち切るためには、教育を受けることで仕事が手に入り、所得が生み出されることの意義を理解し、受け入れなければなりません。

Q:東京都と大阪府では2024年度から、高校の授業料が実質的に無償化されました。どう考えますか。

―― 家庭の経済状況のために私立高校を選べなかった生徒が、希望する高校に進学できるのは良いことだと思います。ただし所得制限を撤廃した今回の政策は、世帯年収に関係なく無償化されるため、教育格差の縮小に直接つながるわけではありません。とくに東京をはじめ首都圏では、中学受験をする子どもが増えています。高校募集がない「私立中高一貫校」も授業料無償化の恩恵を受けますが、そこに進学したいと思うと、中学3年間の学費を払う必要があります。それが払えず、中学受験を断念する家庭にとっては、それらの高校が無償になる恩恵を受けられず、理不尽を感じることになるでしょう。

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柿崎明子
ライター 柿崎明子
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