■教育格差はお金だけの問題ではない
これまで教育格差は「保護者の経済格差」の問題と結びつけられ、政治の場でも議論されてきた。しかし、「親の経済力の話だけではない」と、松岡准教授は強調する。
「誤解してほしくないのですが、経済的な壁をできるだけ無くす政策は重要です。ただ、教育が完全に無償になっても、親の学歴や職業といった文化的・社会的な面による結果の差は残ると考えられます」
松岡准教授の研究によると、出身家庭の社会経済的な地位が低いと、子どもは大学進学を望まないという。
「例えば、中学1年生の時点で、大学進学を前提とする生徒の割合は、両親非大卒層が23%、親のうち一人が大卒の層は41%、両親大卒層は60%です。両親大卒層は世帯収入が高く、専門職である割合が高いので、文化的、経済的、社会的な要素が重なり合った数値です。ただ、世帯収入や出身地域など考えられる要素を考慮しても、親の学歴と子の大学進学期待の関連は残ります」
高学歴の保護者は子どもに幼いころから本の読み聞かせをしたり、宿題をきちんと見たりするなど、大学進学に向いたさまざまな働きかけをしていることがこれまでの調査で明らかになっている。
「一方、両親とも非大卒の家庭では、両親大卒層と同じような“意図的な養育”を行なわない傾向があります。大学進学を前提としなければ、学校外で学習努力を重ねてまで学力向上にこだわる必要もないことになります。芳しくない成績のまま身近に大卒ロール(役割)モデルがいなくて、親からも進学を期待されていないのであれば、子ども本人が大学進学を望まないことは自然な選択ともいえます。出身家庭の社会経済的地位による学力格差と選択格差があるので、授業料の無償化などの経済的支援だけでは最終学歴の差が大きく縮小することはないと考えられます」
■「ICTが教育格差をなくす」という幻想
コロナ禍でICT教育の普及が進み、教育現場ではタブレット端末などを使ったオンライン授業が始まった。文部科学省はICT機器を利用した「GIGAスクール構想」を推し進めており、個々の子どもに応じたきめ細かな教育や、個別に最適化したドリルを提供することなどによって、効果的な学びを支援する、としてきた。
「ICTが普及することによって教育格差がなくなるのでは、と聞かれますが、楽観的過ぎないでしょうか。テクノロジーは使い方次第。出身家庭の社会経済的地位によってICT利用に差があるのがコロナ禍における実態です」
2020年の一斉休校中、家庭の社会経済的地位によって子どものICT学習環境に格差があったという。「親の学歴に加えて、休校期間中に親が在宅していたかによる差もあった」と、松岡准教授は指摘する。