プーチン大統領はどんな人物で、何を考えているのか。今、世界中の人がそんな疑問を抱いているはずだ。ウクライナ侵攻からほぼ1カ月が経過し、プーチン氏の冷酷さが際立つ場面も増えている。だが、若き日のプーチン氏は国外に窓を開こうとしていた人物で、日本を訪問した際には意外な素顔を見せていたという。『プーチンの実像』(朝日新聞出版)の著者の一人である朝日新聞論説委員・駒木明義氏は、プーチン大統領を直接知る多くの人物を取材し、重要な証言を引き出してきた。駒木氏が知るプーチンの素顔とは。
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どうやら、若き日のプーチン氏は、大阪の地下鉄に乗ったことがあるらしい。
今のプーチン大統領が、モスクワやサンクトペテルブルクで地下鉄に乗ることはあり得ない。移動手段は基本的に大統領専用車、専用ヘリコプター、そして専用機に限られる。専用車で移動する際は、通る道を事前に全面通行止めにして、警護車両と共に猛スピードで走り抜ける。
外国訪問の際も、事前に必ずロシアから輸送機で運び込んだ専用車を使う。世界広しといえど、相手国が用意した車を絶対に使わない首脳は、米国のバイデン大統領とプーチン氏の2人だけだろう。
そんなプーチン氏が大阪の地下鉄に乗ったと思われるのは、1995年のことだ。当時42歳。サンクトペテルブルク市の副市長を務めていたプーチン氏は、日本外務省の招待で、2月18日から9日間の日程で、東京、大阪、京都を訪問したのだ。
もちろん当時、その5年後にプーチン氏が大統領になるなどと予測した者は、本人も含めて誰もいなかった。来日したのは、将来有望な若手政治家や官僚に、日本についての知見を深めてもらう目的で日本政府が実施していた「先進国招聘(しょうへい)」というプログラムの対象となっていたからだ。
プーチン氏にとって、これが初めての訪日だった(ちなみに2回目の訪日は、すでに大統領に就任した後の2000年7月、九州沖縄サミットへの出席)。