まずは大学を卒業し、建築事務所に入って建築士になった。東京で美術館などの設計に携わる傍ら、地元で地域おこしの活動もはじめた。だが、誰も相手にはしてくれなかった。
町をもりあげるには、ビジョンや理念が大切だ。でも、それだけで人はついてこない。加藤さんが次にやったことは、なんとインターネットでカニを売りまくること。「ネットでお金を稼いだら、自然を買い戻して、地域に貢献できるかも」と考えた。北海道に戻って、カニなどの水産物を販売するECの会社を立ち上げた。
「100億円稼いだら10億円くらいは自由になるかも、と思い、売上目標は100億円にしました」
ときは楽天市場が立ち上がったばかりのインターネット草創期。参入が早かったこともあり、ECサイトは順調に成長した。シンガポール、香港、台湾など、海外での店舗展開も始めた。ビジネスは一定の成功を見たが、だからといって、北海道にサグラダ・ファミリアが生まれることはなかった。お金を稼ぐことと、地域の未来をつくることは、イコールではなかった。
■値切らずに500万円 欲しいという気持ちが勝った
成功者と呼ばれるようになっても、ガウディの吸引力にはほど遠い。一体、なにが足りないのか。
加藤さんはもともと美術鑑賞が好きで、美術館にはよく足を運んでいた。だが2018年12月、あるアーティストのライブペインティングを見に行ったとき、はじめて「アート作品を手に入れたい」と思った。100号サイズで500万円。通常、ビジネスでは金額に見合う価値があるかを考えるが、それよりも「欲しい」という気持ちが勝った。値切ることはしなかった。人生で最大級の買い物だった。
「感性が研ぎ澄まされる感覚があった。アーティストの力を借りたら、後世に残る文化が生まれるのでは、と考えました」
海外には“Art is long, life is short.”という格言がある。人生の短さに対して、技術や学問、芸術を極めるには時間を要する、という意味だ。でもそのぶん、極めたものがもつ生命力は限りなく長い。加藤さんは、世界的なアート作品を故郷に集めたら、サグラダ・ファミリアのような力が生まれるのではないかと考えた。これ以降、経営者とアートコレクターという「二足の草鞋」を履き、現在も作品を集め続けている。