アートコレクター・加藤敏明さんが2020年に購入した作品『祝祭の日』(小松美羽、100号、2020年)
アートコレクター・加藤敏明さんが2020年に購入した作品『祝祭の日』(小松美羽、100号、2020年)
この記事の写真をすべて見る

 草間彌生、小松美羽、松山智一。日本が誇る世界的アーティストの作品を買い集める男性が北海道にいる。水産物の販売会社の社長で「洋服にも車にも興味はない」が、わずか3年で100点ものアート作品をごっそり買い集めた。なぜ、彼はアートに資産を投じるのか。アートの新しい潮流を紹介する連載「なぜ1億円のアート作品がポチられるのか」。4回目はアートコレクターのお話。

【写真】1億円超の作品がシュレッダーで切り刻まれ…

*  *  *

 加藤敏明さん(56)の自宅は、人口7000人の雪深い町にある。青く輝く摩周湖と国立公園に囲まれた自然豊かな町で、父はカニ問屋を創業し、地域の宿泊施設に水産物を届けた。だが、のちに町は廃れ、取引先は続々と倒産し、小さいころに遊んだ川はコンクリートに変わった。のちに、こう夢見るようになった。

「僕は、北海道のガウディになりたい」

■100年もつくり続ける建築物があるなんて

 その夢は、大学で建築を学んでいるときに生まれた。旅行先のスペイン・バルセロナを散策中、建築家アントニオ・ガウディの未完の大作、サグラダ・ファミリア大聖堂(以下、サグラダファミリア)を見つけたのだ。荘厳な建物に驚き、現場の作業員に聞いた。

「これは、なんだ」

「教会をつくっているんだ。でも、いつできるかわからない」

 実は加藤さん、建築学科ながら当時、サグラダ・ファミリアを知らなかった。着工から実に100年以上経つというが、作業員に悲壮感はなく、むしろ誇りとエネルギーに満ちている。建物の地下には、原点である設計図が残されていた。

 ひとつの設計図が100年ものあいだ人々に影響を与え、それが街を成し、世界から観光客を集める。変わりゆく故郷に必要なのは、時を超える吸引力なのだ。このとき、自らがガウディになることを心に誓ったが、北海道にサグラダ・ファミリアはなかった。

■北海道から全国・世界へ カニで売上目標100億円

 一体、ガウディになるにはどうしたらいいのだろう。

次のページ