もはや国際社会はプーチン氏の言葉を信じていない。なぜ彼は見え見えの嘘を重ねるのだろうか。『プーチンの実像』(朝日新聞出版)の著者の一人である朝日新聞論説委員・駒木明義氏は、プーチン大統領を直接知る多くの人物を数多く取材してきた。駒木氏によると、これまでにもプーチン氏の「嘘」を浮き彫りにした数々のエピソードがあるという。
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プーチン大統領は2月24日に公開されたテレビ演説で、ウクライナに対する侵攻開始を発表した。しかしこの演説、実際には3日以上前に録画されたものではないかという説が、根強くささやかれている。
侵攻に先立って21日に公開されたテレビ演説では、プーチン氏は、ウクライナ東部のドネツクとルガンスクという2カ所の自称「共和国」の独立を承認する考えを表明した。
ところが、21日と24日のテレビ演説に登場するプーチン氏の服装やネクタイはまったく同じなのだ。話している場所や位置も同じように見える。
もしもこの2回のテレビ演説が同じ日に録画されたものだとすれば、ウクライナへの全面侵攻に至るすべての筋書きは前もって決められており、21日には引き返せないところまで来ていた、ということになる。
実際、ロシア大統領府が発表するプーチン氏の写真や映像の日付は、まったく当てにならない。筆者は2016年の時点で、こうしたプーチン大統領の日程のごまかしを裏付けるかなり確度の高い証拠を報じた。
そのときの発見を、改めて以下に紹介しよう。
2016年8月に入ってからも、ロシア大統領府の公式サイトには、プーチン氏の仕事の様子が毎日のように掲載されている。それを見る限りでは、夏休みなど無縁の様子だ。
「写真1」は、2016年8月22日に公表されたアルハンゲリスク州知事との面会の様子だ。場所はモスクワのクレムリンにある大統領の執務室。だがこの写真、見れば見るほど不思議な一枚なのだ。
いや、この写真だけをいくら見ても分からない。「写真2」と「写真3」をご覧いただこう。「写真2」は8月18日に発表されたマガダン州知事との面会。「写真3」は8月23日に発表されたスベルドロフスク州知事との面会の様子だ。3枚の写真を隅々まで見比べてみて欲しい。
おわかりいただけただろうか。