マンション住まいの良さには、共用施設の充実やセキュリティーの強さがある。しかし戸数の少ない小規模マンションの場合には、その費用を少ない住戸で負担しなければならず、毎月の管理費や修繕積立金が一般的なマンションより高額になりやすい側面もある。また、戸数が少ないほど修繕積立金がたまりにくいため、大規模修繕を実施する際に修繕積立金の大幅値上げや一時金の徴収を余儀なくされることもある。

「小規模マンションで長期滞納者がいる場合、極端な話、住民の半数以上が誰が滞納者なのか知るような状況になることもあります」とは、『60歳からのマンション学』などの著書で知られるマンショントレンド評論家の日下部理絵さんだ。

 管理会社に管理を委託している場合、管理会社は管理組合に管理事務に対する報告と収支状況に関する報告をする義務がある。報告の中には管理費等の滞納状況の報告も含まれるためだ。

「管理組合の財政面の赤字や資金不足は、ひとごとではありません。マンションの懐具合は、年齢を重ねた自分を苦しめる可能性があることを認識すべきです」(日下部さん)

 一方で、所有者不明・不在となった物件は、価値がないためにそうなってしまった可能性もある。相続放棄には遺産すべての放棄が必要になるからだ。

 また、たとえ物件が売却できたとしても予納金や滞納分を賄うのに十分な値段に達しない場合も考えられる。その場合、滞納分は新たな区分所有者が引き継がなければならなくなり、ますます買い手を見つけるのが難しくなる。

 マンション問題について詳しい米山秀隆さん(大阪経済法科大教授)は、こう指摘する。

「将来的には、市場価値のないマンションの大半が相続放棄されてしまうといった事態も起こりかねない。放棄しないまでも、相続未登記が増え、権利者に連絡を取るのが難しくなるケースが増えていくことも考えられます。また所有者不明・不在の物件が増えてその期間も長引くと、物件が荒廃し、安全性においても危険な状態となる可能性も出てくる」

 こうした荒廃したマンションが放置されないためにも、マンション管理適正化法が改正され、自治体がマンション管理に関わる仕組みが4月から導入された。だが、長期的な視点で見れば問題は山積している。次回は管理人の老いによって起こる問題について掘り下げる。(フリーランス記者・松岡かすみ)

週刊朝日  2022年8月5日号

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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