所有者が不存在となると物件の売却もできず、空き部屋問題は解消されない。売り出したところで「最寄り駅から徒歩30分近い立地」「築40年」「設備も古く、経年劣化が進むマンション」を、これから買いたいという人がいるのだろうかという別の不安もある。
次なるステップは相続人調査となるが、調査には時間も知識も必要で、必然的に弁護士や司法書士に依頼することになり、費用がかさむ。組合は、そこまでやるべきなのか迷っているうちに、またも月日が過ぎている……という状態だ。
「次の住み手がいないマンション住戸が増えている。マンションの“空き家問題”は、今後より深刻な問題になる」とは、マンション管理コンサルタントの土屋輝之さん(さくら事務所)だ。
国土交通省のマンション総合調査(2018年度)によると、完成年次が古いマンションほど、世帯主の年齢が70歳代以上の割合が高くなっており、1979年以前のマンションにおける70歳代以上の割合は47.2%に上る。さらに、完成年次が古いマンションほど空室のある割合が高い傾向にあり、区分所有者の所在不明や連絡先不通の住戸の割合も高まる。加えて、完成年次が古いマンションほど、管理費等の滞納がある割合が高くなる傾向もある。
区分所有者が高齢になると、例えば高齢者施設などに移った後、自動振替で引き落とされるはずの管理費などの滞納が発生し、連絡がつかなくなるケースも見られる。また築年数が経過した物件では、緊急連絡先の更新がされていないこともあり、いざというときに誰とも連絡がつかないケースも少なくない。
「緊急連絡先の更新がされていないままだと、いざ連絡したときに連絡先の主が亡くなっていることもある。こうした事態を防ぐためにも、複数名の届け出があればまだ良いのですが、届け出がされている親族の情報が一人だけという場合もあります」(土屋さん)
マンション住戸の相続が行われないケースでは、冒頭の例のように、管理費等の滞納が発生し、長期化することで初めて管理組合として問題視されることが多い。国交省が策定した「マンション管理標準指針」では、滞納の期間が3カ月以内に文書などで督促をし、3カ月を超えた場合は少額訴訟など法的手続きの行使について検討するのが望ましいとされている。管理会社に管理業務を委託している場合でも、長期滞納における管理会社の一般的な業務は、管理組合に対して毎月滞納状況を報告すること、滞納者に支払いを督促することに限られる。管理組合と管理会社との管理委託契約では、滞納から6カ月間の督促が管理会社の業務となっていることが多く、それ以降の請求は管理組合が行うものとされている。