■自分って何者なのか?
──つじが自分の中の“WOMAN”と対峙して生まれた『HELLO WOMAN』の楽曲は、聴き手にもかつてない感情を与える。元気や勇気や感動とも違う、心の奥底にしまった傷を静かにそっと撫でてくれるような、肩を軽くぽんぽんされるような感覚だ。
昔から、“個人的なことだけど、みんなもこういう気持ちあるんじゃないかな?”って思いながら曲を作ってるところはあります。たとえば2005年の「春風」という曲は、春の季節にふとすれ違った人が気になってしまう。別にそれが恋に発展するとかじゃないけれど、春の気持ちと相まってちょっとウキウキするみたいなこと、みんなあるんじゃないかなと思って書いた曲です。
でもここ数年は、以前とはまた少し違う感覚が芽生えてきました。出産前は、たとえば子どもに手を上げてしまうニュースを見て、そんなのありえないと思ってましたが、今は“ありえない”と簡単に断罪できるものでもないなって。1つのニュースが伝えるものは決して1つではないんだなと感じられるようになったのかもしれないです。それが今回のアルバムらしさなのかなとも思う。一言では済ませられない感情の複雑さというか。
──子育てに忙しい日々の中で、音楽へのモチベーションを上げていくことに難しさは感じなかったのだろうか。
作り始める前はそこまで思ってなかったんですけど、いざ作り始めた時に思いました。CMソングや映画音楽はずっと作り続けてきましたが、純粋な自分の曲は久しぶりだったので。たとえば飲料のCM曲を作るとしたら、夏らしさとさわやかさとか、すごく言葉と音が引き出しやすいんですけど、自分の曲となるとまず自分がどういう曲を作りたいのか、今何を伝えたいのかっていうところにちゃんと向き合わないと何も出てこない。アーティストさんの中には自分の日々を言葉やメロディーにされる方もいらっしゃるんですけど、私はそういうタイプではないので。
でも今回、「にじ」という曲を子どもに向けて作って、あらためて言葉にすると、本当に子どもって可愛いし、子どもに教えてもらうことはたくさんあるなって。それは発見でした。