小3の青木淳平くんは、指導する高野さんが巡回するのを待つ間も背中がピッと伸びていて、駒台の駒の並びも綺麗。集中を切らさなかった(撮影/写真映像部・高橋奈緒)
小3の青木淳平くんは、指導する高野さんが巡回するのを待つ間も背中がピッと伸びていて、駒台の駒の並びも綺麗。集中を切らさなかった(撮影/写真映像部・高橋奈緒)

「もう一つ習っているサッカーは何時間もやると体が疲れるけれど、将棋はいくらやっても疲れないし楽しい」(淳平くん)

 母親の絵美さん(44)は、将棋に取り組むようになってからの淳平くんの変化をこう話す。

「集中力がついたのと、毎日やることを自分で決めて実行できるような習慣がついたことですね。『詰将棋がいいと先生が言っていたから』と自分で計画表を作って、解き終わったら『お母さん、ここにハンコを押して』って。目標を少しずつ自分で決めて達成する中で、級が上がったり、大会で成績を伸ばしたりして、自信もついていっているのかなと思います」

 将棋が子育てに役立つポイントとして、プロ棋士や指導者たちが真っ先に挙げるのは、子どもの「自立心」が育めるということ。藤井聡太五冠も小中学生時代、将棋の教室に通いながらも、自宅で棋譜を見たり、気になった局面を盤に並べたり、詰将棋を解いたり、将棋ソフトを相手にしたりと、一人で研究しながら学んでいたことを師匠の杉本昌隆八段は著書『弟子・藤井聡太の学び方』で記している。

 先の高野さんは、長い人生を生き抜く自立心を育むのに、将棋ほど貴重な体験はないと語る。

すべてセルフジャッジ

「たとえばスポーツの試合なら、監督やチームメイトから助言をもらうこともできますが、将棋の対局はすべてセルフジャッジ。自分で考えて、決断して駒を動かす。その連続です。最初から最後まで一人でやり抜かなければならない。その結果としての勝敗を毎回受け入れ、悔しさを覚えたり達成感を味わったりする中で、子どもは自然と自立していくんですね」

 高野さんは、将棋が子どもの成長を育む「三つの力」として「自立心」のほか、「決断力」や「思いやりの心」も挙げる。

「決断力」とは、多くの情報から選んで決める力だ。9×9マスから選んで指す初手から終局までのパターンは、10の220乗にも上る。高野さんは、膨大な選択肢がひしめく中で一手を選ぶのは「プロでも容易ではない」が、世の中に決断力が求められるシーンは、今後ますます増えていくだろうと予想する。

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「負けました」と頭を下げるマナーが大切