「このように攻め方を3手ずつ先読みしてみて、どちらの場合の方が得かなと。1手だけじゃなくて、3手先のことまで考えて動かしてもらいたい。駒を取って安心しないで、取った駒の『力関係』のところまで考えて先を読んでもらえると、グンと強くなる。何度も頭の中でシミュレーションすることが、3手思考のよいトレーニングになります」(高野さん)
とはいえ、あまりにも選択肢が多いと、子どもは混乱状態に陥ることもある。学び始めは、選択肢を絞ることも有効だという。あらかじめ「捨ててもいい選択肢」を決める手伝いを大人がしてあげればいい。
いい取捨選択の心掛け
「たとえば美濃囲いや矢倉囲いのような囲いを作るというのも方法の一つ。囲いが完成した場所は、しばらく放っておいても守りが強固だから、そのゾーンでの展開はしばらく考えなくてもよくなる。いい取捨選択は、いい人生を創る。競技上の選択でも、人生でも同じですよね」
高野さんは、実感を込める。
自分、相手、自分。交互に目配せして向き合う3手思考は、日常のコミュニケーションに似ている。高野さんが続ける。
「将棋は、盤を挟んだコミュニケーション。ある時、将棋教室で相手に焦れる小さいお子さんを傍で見ていた高学年の子が、『待つのも将棋だよ』と声をかけていたことがあった。今、そういうコミュニティーの場が減っていますが、長い目で人生をみた時に、子どもの将来に効いてくるのは、互いの立場に立ってものを考える人間力。将棋で大事なのは、そこだと私は思っているんです」
(ノンフィクションライター・古川雅子)
※AERA 2022年4月18日号