将棋でも、AIで評価値がつく時代。中継で観ている人たちが優勢なのか劣勢なのかを知る手がかりとしたり、棋士たちが普段の研究で参考にしたりしています。けれど、勝負をする相手は人間であり、AIが示す評価値は『正解』には決してならない。根拠を検証するのも、あくまでも人間です。人間が今までよりもっと自分で考えて、決断しなきゃいけない時代になっていくと思います」

「思いやりの心」が育める理由として高野さんは、

◯最初の「お願いします」の挨拶
◯負けた側が敗北を認めて「負けました」と頭を下げる負けの宣言
◯終礼「ありがとうございました」

 という将棋ならではの基本マナーを挙げる。

「3手」で手損の計算

「小さい子でも、負ける悔しさを何回も味わううちに、相手の気持ちもわかるようになるから、勝った、勝ったと相手の前ではしゃがなくなる。簡単には勝てない相手と勝負したがるようになる。すると、『負けました』と言えるようになり、その後、いい勝負が出来たことへの感謝として、『ありがとうございました』という言葉が自然と出てくる。子どもの成長のステップがまた一段上がるんです」

 家庭でも「三つの力」を身につけるのにいい方法は? そう尋ねると、高野さんは、将棋特有の「3手思考」のトレーニングが有効だと答えた。

「3手思考」の基本(AERA4月18日号から)
「3手思考」の基本(AERA4月18日号から)

「将棋の場合、自分、相手、自分と、お互いの指し手を三つ先まで読む『3手の読み』が最も基本の考え方です。一つひとつの選択に、必ず理由をつけて考える癖をつけるといいですよ」

「3手思考」のトレーニング方法としては、定番の詰将棋のほか、先々に自分が得になるのか、不利になるのか、勝敗に影響する「手損の計算」をする方法もある。お互いの力関係を計算する手がかりになるのが、自分と相手の「持ち駒」の強さだ。

 持ち駒が、どちらも「歩」の場合、勝負はイーブンに。一方、相手に渡したのが「銀」なのに対して自分の持ち駒は「歩」の場合は、自分が劣勢になる。なぜなら歩は1マスしか進めないのに対して、銀は五つのマスに進められる。つまり「歩よりも力が勝る」ためだ。

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