破壊された村に残されていたのは、道端に放置されたままの多くの市民の遺体。凄惨な映像に言葉を失った人も多いのではないか。この非道の責任者が裁きを受ける道はないのか。世界を、強い者が好き放題できる「無法地帯」にしてはいけない。
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戦況は泥沼化の様相を見せ始め、民間人の犠牲が増え続けている。
ロシア軍が包囲しているウクライナ南東部の要衝マリウポリについて、ドネツク州のキリレンコ知事は、民間人の死者数が2万人を超えるとの見方を示した。また、ロシア軍は戦争犯罪の証拠を隠滅するため、遺体をロシア支配地域に運び出しているとも言及した。
世界中に衝撃を与えたのは、ロシア軍の撤退後、400人を超える民間人の遺体が発見された首都キーウ(キエフ)近郊のブチャだ。国際刑事裁判所(ICC)の検察官による捜査が始まり、無抵抗の民間人の殺害、性的暴力、略奪行為などの証拠集めに取りかかる。後ろ手に縛られ、頭部を銃撃された遺体も見つかっており、ゼレンスキー大統領は「これはジェノサイド(大量虐殺)だ」と主張している。
キーウ近郊での民間人殺害に関与が指摘されているのが、ロシア南部チェチェン共和国の独裁者カディロフ首長の私兵組織「カディロフ部隊」だ。
防衛ジャーナリストの半田滋氏がこう語る。
「カディロフ氏はプーチン大統領に忠誠を誓い、私兵を差し出したのです。カディロフ部隊の残虐性は有名で、ブチャで民間人を拷問、殺害にも関わっているとみられています。キーウ近郊から撤退後、戦闘激化が懸念されるウクライナ東部に送り込まれます。正規軍にチェチェン人部隊が混在していて、ロシア軍は統制が取れていません。東部の都市でも残虐行為が起きる恐れがあります」
ロシアは5月9日に対ナチスドイツ戦勝記念日を迎える。戦果を急ぐロシア軍の蛮行はエスカレートしていくのだろうか。マリウポリで化学兵器を使用したとの情報も流れた。ウクライナの戦闘部隊「アゾフ連隊」は「無人機から有毒物質を撒(ま)いた」と主張したが、確認は取れていない。