「戦争にもルールがある」と指摘するのは、国連の国際法委員会委員に内定している同志社大学の浅田正彦教授(国際法)だ。では、ロシア軍の戦場でのどのような行為が戦争犯罪に該当するのか。
ICCは「集団殺害犯罪(ジェノサイド)」「人道に対する犯罪」「戦争犯罪」「侵略犯罪」の四つの犯罪について管轄権を有する。戦争犯罪は国際的武力紛争(国家間の戦争)と、非国際的武力紛争(内戦)に適用される犯罪とに分けられ、今回は前者に当たる。浅田教授が解説する。
「適用される犯罪として、文民(民間人)、病院、学校、住居などを故意に攻撃すること、性的暴力、略奪など34項目が挙げられています。ロシア軍が行っていることが、かなり該当しそうです」
戦争を起こした張本人であるプーチン大統領の責任を問うことはできるのだろうか。浅田教授が続ける。
「『上官責任』の規定があり、軍隊の上官だけでなく政府の上層部にも責任は及ぶとされています。プーチン氏が直接、ロシア兵に民間人殺害などを命令していなくても責任が問える場合があります。犯罪を知っていながら防止する措置を取らなかった場合です。プーチン氏は、戦況について側近から事実を知らされていないとの情報もありましたが、ブチャの住民殺害をロシア軍の行為とする主張に対して『フェイクだ』と関与を否定しています。つまり、情報を明らかに把握している。今後、同じ事態が起きれば、罪に問える確率は高まります」
逮捕状が出れば、プーチン氏は戦争犯罪容疑者になる。だが、ICCに加盟していないロシアは捜査・訴追への協力義務がないため、身柄を引き渡すことはない。プーチン氏がICC加盟国を訪問した際、その国の政府は身柄を拘束してICCに引き渡す義務があるが、ロシアと敵対するリスクがあり現実的には難しいだろう。
「スーダンのバシル前大統領はダルフール紛争での集団虐殺に関与したとして、逮捕状が出ています。しかし、バシル氏はICC締約国も含めて、他国を訪問していますが、どの国も逮捕していません。ましてや、プーチン氏を逮捕、拘束することはさらに困難です。ロシア国内で政変が起きてプーチン氏が失脚した場合にはその可能性が出てくるかもしれません」(浅田教授)