仙洞仮御所で過ごしたおよそ2年の間。おふたりは、外出や外部との交流も控え、静かな生活を送っていた。
そうした時間のなかにも、上皇ご夫妻らしい、あたたかな交流もあった。
仮御所にほど近い東京・高輪にある愛星保育園。上皇ご夫妻は、同園の子どもたちと「どんぐり」を通じて心の交流を続けていたのだ。
■お誕生日に「ハゼの絵を贈りたい」
同園の村岡恵美子園長によると、最初のきっかけはどんぐりの実だった。子どもたちが工作などに使うため毎年、仮御所の敷地の外に落ちるどんぐりの実を拾っていた。
ところが、上皇ご夫妻が仮御所に引っ越していた2020年の秋は、敷地の外に実が落ちてこなかった。保育園の職員は思い切って仮御所の職員にたずねてみた。
「今年は実がないのでしょうか」
すると、こう返事があった。
「保育士の方でしたら、仮御所の門のそばで拾っていいですよ」
さっそく、落ちていたどんぐりの実を園に持ち帰ると、子どもたちは画用紙に思い思いの絵を描き、拾ったどんぐりを接着剤で貼りつけて楽しんだ。
村岡園長は、ふとこう思った。
「上皇ご夫妻のお住まいで育ったどんぐりで、子どもたちは楽しい時間を過ごすことができた。お礼に子どもたちの『作品』をお渡しすることはできないだろうか」
もちろん、受け取れないと言われるかもしれない――。そんな不安もよぎったが、A4サイズの画用紙に描いた子どもたちの作品にリボンをつけて、仮御所の職員に託してみた。
どうやら受け取ってもらえたようだった。
季節は過ぎて、上皇さまのお誕生日だった20年12月23日。今度は、子どもたちが上皇さまのお顔の絵と「お誕生日おめでとうございます」というメッセージを入れたカードを作り、村岡園長が仮御所に届けに行った。また、昨年10月の美智子さまのお誕生日には、子どもたちが花束を贈った。
「美智子さまはお花がお好きだと聞いたので、子どもたちとお花を作りたい、という話になりました」
フェルトで花を、茎は竹串で表現して籐の花かごに入れた。