それにしても、なぜ小室夫妻への「税金」がこれほど問題とされるのだろう、と考える。
例えばアベノマスクだが、余った約8千万枚の保管に年間6億円かかっていた。すべて廃棄するのはもったいないと、4月1日から希望者への配布が始まった。費用は約3億5千万円。すべて税金なのに、批判は高まらない。安倍晋三さんは1月、自分の派閥の会合で「(希望者への配布を)もっと早くやってもらったらよかった」などと、のん気に語っている。
「権威」なのだと思う。岸信介の孫で、元首相。そういう大きなストーリーがなくても、国会議員=権威。世の中がそう受け止めている。だから昨秋に盛り上がった1日在職しただけで100万円もらえる文書通信交通滞在費への批判も、長続きしなかった。与野党が「日割り」に合意したのは4月12日。「権威」だから、半年もかけられる。
権威、肩書が基準に
「コロナの女王」の異名をとった岡田晴恵さんへのバッシングも同じだと思う。国立感染症研究所から白鴎大学教授に転じた専門家だが、ネット上の書き込みは露骨にこう言っていた。「医者でもないくせに」。確かに尾身茂さんら、表舞台に立つ専門家は医者だ。国会議員、医者。わかりやすい肩書があれば別格、なければ叩いてよし。そういう世の中の真ん中に、小室夫妻は立っている。
圭さんは、これまでの女性皇族の結婚相手と大きく違う。学習院に接点がなく、弁護士事務所のパラリーガルとして登場した。そこに加わった母の金銭問題が「叩いてよし」の号砲になり、眞子さんへの1億円を超える「一時金」がガソリンとなった。彼には「権威」がなく、秋篠宮家は「次男家」。ブレーキが利きにくい組み合わせだった。
眞子さんと小室さんは、しみじみと時代の合わせ鏡だと思う。小室さんを、上昇しようとしてし損ねた人、または上昇しようとする資格のない人と見たいのだろう。だが、そう思う人々も格差社会の確かな一員で、その生きづらさは例外ではない。
なんだか暗くなったから、最後に4月第2週に終わったNHKの朝ドラ「カムカムエヴリバディ」の話を。最終週、白髪のるいと錠一郎が登場した。晩年の2人は実に穏やかで、とても美しかった。人生は最後までわからない。眞子さんと圭さんの人生は、まだまだこれからだ。(コラムニスト・矢部万紀子)
※AERA 2022年5月2-9日合併号より抜粋