

そして88年、再び映画音楽との決別を決めていたモリコーネの心を動かしたのが「ニュー・シネマ・パラダイス」だった。2007年にアカデミー賞名誉賞を受賞するまで、彼が葛藤をどう乗り越えていったのか、その道のりに心を揺さぶられる。
「モリコーネは人間的にとてもシンプルな人でした。同時に複雑で尖った面もあった。だからこそ魅力的で、彼をもっと深く知りたいという好奇心を誘発するのです」
映画に登場しないエピソードを教えてもらった。
「彼は動物好きで、ローマ郊外に住んでいたころは犬や鳥などすごい数の動物を飼っていた。そのなかに2羽のクジャクがいたのですが、セルジオ・レオーネ監督に『クジャクはアンラッキーで不幸を呼び込むんだよ』と言われ、すぐ動物園に寄贈したそうです(笑)。その後、ローマの中心街に移った際には、ほかの動物たちもすべて動物園に寄贈していました」
そんな「人間・モリコーネ」の魅力が詰まった本作で、懐かしの映画と音楽に酔いしれてほしい。
■「作品を描くときに常に頭の中を駆け巡っている」

漫画家 弘兼憲史さん
僕はエンニオ・モリコーネ、大好きなんです。入り口はやっぱり「荒野の用心棒」などのマカロニ・ウェスタン。特に好きなのは「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」です。ギャングの激しい殺戮シーンにあえて柔らかい切ないメロディーを入れたのは本当に革命的で、あれはあの音楽がないと成立しない映画だと思います。
でもクラシックに比べて映画音楽が下、という空気があり、ご本人がそのことでずいぶん悩んだり、苦労をしたりしてきたことを、この映画で初めて知りました。監督と意見が合わなかったり、ときに喧嘩したりしながら、あの名曲たちを生み出していたという部分にも人間性を感じましたね。僕も物を作る人間なので、やはり編集者や原作者とのぶつかり合いはある。映画音楽は共同作業であり、物作りの苦労は同じなんだなあ、と感慨深かったですね。