球団も、こうしたファンの意見に配慮するようになった。00年6月、東京ドームで行われた巨人―横浜戦では、「球音を楽しむ日」として、私設応援団に鳴り物自粛を要請。その後も各球団が、試合数としては極めて少ないものの、同様の取り組みを行ってきた。さらに、05年に誕生した楽天の本拠地では鳴り物応援が禁止されるなど、新たな観戦文化を模索する動きも出始めた。

 よもやのコロナ禍で、にぎやかな応援は自粛の今。ネット上では鳴り物応援が廃れることを危惧する声と、「なくなればいい」の声が交錯する。

 ケーブルテレビの「J:COM」がコロナ禍の20年に実施した「プロ野球の無観客試合に関する意識調査」では、無観客試合のテレビ中継を見た743人の感想のうち、「打球音や捕球音が聞こえて楽しめた」が最多の57・9%、「選手の声が聞けて楽しめた」が2位の40・6%で、肯定的な意見が上位を占めた。一方で、「スタンドにファンがいない風景が寂しかった」(33.6%)、「応援の音・声がなくて寂しかった」(30.7%)などの意見も一定数あった。プロの打球や捕球の音を「迫力がある」と感じるか、静かな球場にさみしく響く音と感じるかは、それぞれなのだろう。

 高橋教授は、過去にプロ野球の球場で観客の意識調査を行ったことがあるが、「周囲とのつながりを感じながら、お祭りのように野球を楽しみたい外野席のファン。技術や戦術、打球音など、野球そのものの魅力を感じたい内野席のファンとでは志向がが異なる傾向にあるようだ」と実感した。ただ、「現在、球場で録音した応援歌を流しているということは、鳴り物応援という伝統はこの先もなくならないということではないか」とも話す。

 観戦スタイルに正解はない。コロナ禍がもたらした新たな野球観戦の形は、当たり前になっていた鳴り物応援を見直すきっかけになるのか。それともコロナ禍が収束すれば、元通りのにぎやかな応援が球場にこだまするのだろうか。(AERAdot.編集部・國府田英之)

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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