これから様々な問題点が明るみに出てくるだろうが、こうした避けられたかもしれない事故がなくならないのはなぜか。私たちは自然への恐れを忘れ、人智に頼りすぎていないか。
いくら天気予報が詳しくなっても、急な天候の変化までは予測できないし、対応できない。私には体験がある。
二十年近く前のこと。新潟県の村上に近い温泉地で、友人の持つレジャーボートに乗った。
その地は保養地で別荘も多く、夏場でもあり、朝起きると晴天で波は静か。こんな日に船に乗らない手はないとすすめられ、ジンクスを忘れ、粟島まで一時間足らず。
乗ったはいいが、行きは良い良い帰りは突風で船は進まず、一時間半過ぎても岸に到達しない。白波が猛り、心配した人々が岸壁に集まっている。そのうち波が船内に入り後悔しても後の祭り。天候の変化は予測できなかった。
知床でもはじめ三十センチだった波が二~三メートルにまでなったという。
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中
※週刊朝日 2022年5月20日号
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