元朝日新聞記者 稲垣えみ子
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 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

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 コロナのせいだろうか。戦争のせいだろうか。1日の始まりをしみじみ有難く思う。具体的に言えば、朝4時過ぎにパッチリと目が覚めてパッと布団から出てしまう。あ、年のせい?

 ま、そのすべてが少しずつ影響しているんだろうが、最も大きな理由はそのいずれでもなく、単に朝も早よから「明るい」から。

 ついこの間までの、どうにも布団から出難かった寒く暗い朝を思えば、掃除もはかどるし洗濯物も乾くし何ともおトク感満載。でもこのお恵みも夏至(今年は6月21日)を過ぎればどんどん細っていくのであり、そう思えば今のうちに貪り尽くしておかねばと焦りもする。ぐずぐず布団にこもっている場合じゃないんである。

 ま、それだけのことなんですけどね。

東京は太陽に恵まれない日が続く。せっかくの季節なので太陽ガンバレと念じてるんだが……(写真:本人提供)
東京は太陽に恵まれない日が続く。せっかくの季節なので太陽ガンバレと念じてるんだが……(写真:本人提供)

 でもよく考えると「それだけのこと」で毎年ウキウキしている自分に笑えるし、なかなかいい線いってるじゃないかとも思う。だって少なくともこの楽しみは私が生きている限り、ミサイルが飛んでこようが年金制度が崩壊しようが、誰に奪われることなく永遠に続くのだ。人は楽しみがあれば生きていける。生涯の安全保障を得たも同然である。

 とはいえ自力でこんな娯楽に気づいたわけではなく、全ては会社を辞めて小さな家に引っ越しモノ持たぬ生活へ突入せざるをえなかった際、エアコンもカーテンもやめて太陽の動向にストレートに支配されるようになったおかげである。何しろエアコンなしってことは外気と連動して暮らすってことだから外気の影響を遮断するカーテンの意味ないのよ。むしろ太陽の恵みをカーテンに邪魔されたくないと思ったことが奏功した。

 今にして思えば、私は自然を征服することを諦め、自然のおすそ分けにすがって生きることを選択したのである。無論そこには厳しさもあるが、厳しさがまた楽しさも生む永遠の循環。全くよくできている。何より自然を敵に回したところで長い目で見れば勝てるはずもない。私は最強の勝ち馬に乗ったのだ。

◎稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

AERA 2022年5月23日号