プロ野球のスター選手が一堂に会する球宴の季節がやってきた。71年の歴史のなかで、今も語り継がれる大記録がある。江夏豊さん(74)が達成した9連続奪三振だ。7月26日の開幕を前に、田淵幸一さん(75)とともに伝説を残した「黄金バッテリー」に話を聞いた。
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幾多の名場面を生んだオールスター。なかでも往年のファンの記憶に強烈に焼きついているのは、やはり1971年の試合だろう。この年、阪神タイガースの江夏豊投手と田淵幸一捕手の「黄金バッテリー」が、9者連続奪三振という偉業を成し遂げた。オールスターは3イニングしか投げられない決まりで、この記録に肩を並べた投手はいない。
今でこそ伝説として語られる投球だが、出場前の江夏さんは本調子ではなかった。ファン投票で1位となりセ・リーグ代表に選出されたものの、「自慢できる数字じゃなかったんですよ」と語る。
それまでの成績は26試合に登板して6勝9敗、防御率は3.12。前年に52試合21勝17敗、防御率2.13、340奪三振を記録し、最多奪三振のタイトルを獲得したのに比べると物足りない。何が江夏さんを奮起させたのだろう。そのきっかけを思い出してもらうと……。
「日刊スポーツの記者だったかな。『ようそんな成績でオールスターに出てきたな。ちょっとお客さんが喜ぶようなことをやらないといかん』とハッパをかけられて。そこで、頭に浮かんだのが『奪三振』だったね」
当時のオールスターの奪三振記録は、江夏さんが前年に記録した八つ。しかし連続ではない。安打を許し、点も取られた。
「そういうこともあって、自分の記録を抜いてやろうと思いついたんです」
そして迎えた第1戦。西宮球場のマウンドに立った江夏さんの投球は冴えていた。田淵さんがはっきりした口調で言う。
「豊のストレートは走っていたね」
一回裏。先頭打者の有藤通世(ロッテ)を変化球で切って取り、続く基満男(西鉄)も空振り三振に。3番は「32試合連続安打男」(江夏さん談)の長池徳二(阪急)。最も警戒していた相手だったが、フォークで空振り三振に仕留めた。