週刊朝日 2022年8月5日号より
週刊朝日 2022年8月5日号より

 続く二回表には、打者としても度肝を抜く記録を残す。田淵さんから借りたというバットを手に打席に向かった江夏さん。米田哲也(阪急)が放った球を打ち抜くと、ライトスタンド中段に突き刺さる特大3ランホームランとなった。

「ボールを見て打ったんじゃないんだよ(笑)。1、2の3でバットを振ったら勝手に当たって飛んだ。ど真ん中にボールがきて。いやぁ、でも後で怒られた怒られた。ヨネさん(米田)とキャッチャーの岡村(浩二・阪急)さんにこっぴどく。『先輩に恥かかせんな』って」

 当時の朝日新聞には王貞治(巨人)のコメントが載っている。「きょうは(中略)江夏デーですよ。あんな大きなやつを打つなんて……。こっちは商売あがったりだ」(71年7月18日付)

 二回裏は江藤慎一(ロッテ)、土井正博(近鉄)、東田正義(西鉄)から三振を奪った。

 そして迎えた三回裏。2万人以上が見つめるなか、球場は異様な静けさに包まれていた。

 先頭打者の阪本敏三(阪急)を見逃し三振に、続く岡村を空振り三振に仕留めた。9人目は代打の加藤秀司(阪急)。彼が打席に立ったとき、バッテリーの2人は大記録達成を確信した。江夏さんが振り返る。

「警戒していた張本(勲・東映)さんや野村(克也・南海)さんがまだベンチにいた。けど、出てきたのは加藤。『これはいける』と思ったね。晩年の彼はミートがうまい巧打者だったけど、1年目の当時は豪快に振り回すバッターだったから」

 カウント1‐1からの3球目。加藤が打った球はキャッチャー後方へのフライとなった。

「追うな!」

 そう叫んだという江夏さん。「感覚から、スタンドに入るのがわかった。それよりも(田淵は)早く座ってくれと。次の球で、絶対三振が取れる自信があったから」

 そう話す江夏さんに対し、田淵さんが笑いながら語った。

「仮に取れる位置のフライでも、これ(手を広げて落とす)しようと思ってたの。やっていたら、絶対に記憶に残るプレーでしょ(笑)。普段だったら『馬鹿じゃねぇか』って言われるだろうけど、あのときはやっても格好良かったと思うね」

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