
個人の感情で外交を動かすこともあれば、現実主義を強く打ち出すこともあるエルドアン大統領。
「今回のウクライナ問題に関しては、エルドアン大統領は現実主義者として動いているように見えます。基本的なスタンスとしてはウクライナとNATOを支援していますが、ロシアとの関係が非常に深いトルコにとって、それを断ち切るのは難しい。そこで、なんとかロシアを国際社会につなぎとめようと、仲介という外交姿勢をとっていると思われます。それはトルコがロシアに対する制裁に参加していないことからもうかがえます」
エルドアン大統領は、仲介者として動いた3月には精力的に多くの首脳と会い、根回しを続けた。ところが、5月18日、あからさまにスウェーデンとフィンランドのNATO加盟に反対した。
その理由は三つあると、今井さんは説明する。
「仲介者として動いているわけですから、ロシアに対して気を使っていると思います。最終的にスウェーデンとフィンランドの両国の加盟に賛成するにしても、『トルコは当初強く反対したが、渋々承認した』という理解になれば、他のNATO加盟国とは違うということをアピールできます」
国民の反PKK感情
二つ目が、先述した「PKKの力を弱める」ことだ。
「スウェーデンには、トルコ政府がPKK関連と見ているクルド人団体が存在しています。加盟申請中の両国に対して『テロリストを支援している』という主張を繰り返すことによって、19年秋にトルコが北シリアに侵攻した際に実施されたトルコに対する武器輸出の禁止の解除、PKK関連団体の関係者の国外追放など、なんらかの妥協を引き出せるかもしれない。それで、このような対応をとっていると思われます」
トルコ国内の反PKK感情は、非常に強い。それに大統領が縛られている面もあるという。
「エルドアン政権は一般のクルド人を敵対視しているわけではありません。あくまで、トルコ政府と武力闘争を続けてきたPKKを“テロリスト”と呼び、批判をしているわけです。エルドアン政権は09年からのPKKとの和平交渉で2回くらい話がまとまりそうなことがありましたが、世論の反対が強く、決裂してしまった。PKKとの長年の抗争で多くの人が亡くなり、そのたびにテレビや新聞で大きく報道され、国民の反PKK感情が強く喚起されてきた。そんな背景もあって、エルドアン大統領はPKKの問題に対しては強く出ざるをえないのです」