兄貴分の政治家として、トルコのエルドアン大統領に敬意を込めて接するウクライナのゼレンスキー大統領。一方、トルコはロシアとシリア内戦などで対立しながらもその関係を深めてきた。日本貿易振興機構アジア経済研究所の今井宏平さんによれば、トルコがフィンランドとスウェーデンのNATO加盟に反対しているのは、紛争仲介者としてのプーチン大統領への気遣いと、トルコ国内のクルディスタン労働者党(PKK)に反対する姿勢が背景にあるという。
※記事前編<<ゼレンスキーが頼りにする「親分肌」のトルコ・エルドアン大統領が、ロシアとの関係を切れない理由>>から続く
* * *
プーチン大統領との関係から見えてくるのは、義理堅く親分肌のエルドアン大統領ではなく、現実主義者としての姿だ。
「トルコはNATOの一員ではありますが、加盟国を100%信頼しているかというと疑問が残ります」
今井さんは、そう指摘する。
その背景の一つに、1952年にトルコと同時にNATOに加盟したギリシャとの間でくすぶっている「キプロス問題」がある。
「1960年代と70年代にギリシャ系住民とトルコ系住民が対立・衝突した『キプロス紛争』が起こった際、アメリカをはじめとするNATO加盟国が基本的にギリシャを支援しました」
当然のことながら、トルコはその動きに反発した。
「さらにトルコは近年、NATO加盟国であるにもかかわらず、ロシアから防空ミサイルシステムを購入しました。2020年秋、その試射をしたことで米トランプ政権は対ロシア制裁法に基づく対トルコ制裁を発動しています」
「強く反対する」というポーズ
このように国際的なトルコの立ち位置が微妙なのは、難しいかじ取りを必要とされる地理的環境があると、今井さんは説明する。
「西側との関係は深いのですが、地理的にアメリカは非常に遠い。一方、ロシアや中東の政情が不安定な国々がすぐ近くにある。だからこそ、トルコの外交はリスクヘッジを念頭に置いていると思われます。言い換えれば、全方位外交が基本にあるのです」