0対0の6回、中日は2死から落合博満死球のあと、宇野勝が左越えに先制2ランを放った。

 事件が起きたのは、長冨浩志が次打者・仁村徹にこの回2個目の死球を与えた直後だった。

「3つも続けてボールがすっぽ抜けるわけがないでしょう」と死球の直前にも危ない球が続いていたことに怒った仁村がマウンドに詰め寄ったのを合図に、中日ベンチから星野仙一監督自慢(?)の戦闘要員・岩本好広、小松崎善久が先頭切って飛び出してきた。

 たちまち両軍ナイン入り乱れての大乱闘に発展。広島きってのファイター・長嶋清幸も、センターの守備位置から駆けつけ、「広島は汚い!」と罵る岩本の股間に飛び蹴りをお見舞い。大暴れした岩本のユニホームもボロボロになり、喧嘩両成敗でどちらも退場になった。

 長嶋は「(ショートの)高橋(慶彦)さんがポンポンやられているから、見殺しにできないでしょう。岩本?いつもこんなケースになれば、調子に乗って出てくるんです」と説明。この機会に懲らしめてやろうと考えたようだ。

 10分の中断後、ようやく試合再開となったが、長嶋はこの日の暴れん坊ぶりが星野監督のお眼鏡に叶ったのか、3年後に中日に移籍し、コーチに就任した岩本とチームメイトになった。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2021」(野球文明叢書)。

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